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論文紹介: ドイツの移民ケア労働者 後編

ドイツでの移民のケア労働者をめぐる状況について論文を調べた。その後半。

以下の論文は主に法律について書かれている。

http://www.ethik-und-gesellschaft.de/ojs/index.php/eug/article/view/2-2013-art-2/51 [pdf]

http://www.ethik-und-gesellschaft.de/ojs/index.php/eug/article/view/2-2013-art-2

Constanze Janda

 

Feminisierte Migration in der Krise? Pflegearbeit in Privathaushalten aus aufenthalts-, arbeits- und sozialrechtlicher Perspektive

女性化された移民は危機にあるか 在留、労働、社会福祉の観点から見た私的な家事でのケア労働 

 

Constanze Janda

前半は、ドイツでは福祉による介護給付だけでは足りず、移民がよく家庭労働に雇われる。

そのケア労働をするには東欧や非EUからの移民が多い。

しかし、需要はあるがケア労働者募集のための法的な枠はあまりない。

そのため移民ケア労働者は不安定な働き方やときに違法労働をよぎなくされている。

という話だった。後半はそれら不安定だったり非合法だったりする中で働くケア労働者について、労働法や社会保険社会保障の観点から書かれている。

 

要点
  • 労働者としての権利はドイツが批准しているILOの家事労働者条約で保障される。しかし、労働時間や解雇猶予などの保護の実現は不十分。
  • 社会保障はドイツに長く住む人のためのものなので移民は排除されがち。
  • 社会保険は一定収入以上あれば加入できる。家庭で雑用をする労働者には雇用者が代わりに保険料を払う規則がある。


まず労働時間などを決めている労働法。


3. 労働法的な評価

家庭での労働は文書に残さないことが多く把握されにくい。

まさに住み込み労働者についての実態把握はおろそかにされがちだ(Hess 2008, 104)。これは直接に、雇用関係での労働法の基準の遵守や社会保障への権利に影響する(Jungwirth/ Scherschel 2010, 123)。


3.1 非雇用者の地位と自営業の比較

社会学の論文では長らく、家庭や家族労働も「労働」であるという認識が必要だと主張されている。

ケアの仕事は法的にはi.S.v. § 611 Abs. 1 BGBのサービス業だが、自営なのか雇われなのかの判断が難しいそう。

 

とくに住み込みでケアをする人において、自営業だとみなされた独立業、すなわち古典的な名ばかり自営業のケースが問題になる(Moritz 2007, 150; Shinozaki 2009, 75; Frings 2010, 66; Frings 2011, 91; Schmid 2010, 187; Kretschmann/ Pilgram 2011, 116; Tießler-Marenda 2012, 106)。


3.2 住み込みケア労働者の労働法的な保護

住み込みでケアする人が被雇用者の地位を是認されても自動的に包括的な労働法的保護をともなうわけではない。住み込みケア労働者の権利である被雇用者の権利は、BGB(民法典)の発効まで有効だった奉公人の権利にもとづいていたが、その法体制は民法典で時代遅れになった(Richardi 2009, § 18, Rn. 15; Scheiwe/ Schwach 2012, 327)。

 

3.2.1 雇用の禁止と労働契約の有効性

被雇用者が契約にあるサービスを提供すれば、その雇用者は誤った労働関係の原則にしたがい賠償を負う。この賠償請求ははっきり法的に定められている(§ 98a AufenthG)。

 

じっさいの労働関係から権利の行使を望む場合、文書によらない被雇用者は解雇のみならず違法在留の発覚、それによる追放の危険にさらされる(Tießler-Marenda 2008, 7)。そのため彼らは搾取的な労働条件で働く。

 

3.2.2 国際法的な基準

2011年の6月にIAO[=ILO: 国際労働機関]は家庭使用人の権利についての協定を可決した。この協定は家庭内でする仕事を労働として認めている。家庭労働はArt. 3 IAO 189によって他の(生産的)仕事と同等の立場に置かれ、それによって権利面、とくに労働権や社会権で「可視化」(Boni 2011, 581)される。

 

暴力や性的な侵害から守られ(Art. 5)、適切で公正な労働条件(Art. 6)と法定労働時間(Art. 10)、国際法的にいきとどいた最低賃金(Art. 11)、健康保護のための措置(Art. 13)やその他いくつかの権利がある (im Einzelnen Boni 2011, 582f.; Scheiwe/Schwach 2012, 308ff.)。

 

唯一の分類指標は仕事の実施場所、すなわち他人の家庭での家政労働の実行であり、就労者が住み込みかどうかは問わない(Boni 2011, 582; Kocher 2012, 4; ILO 2013, 8)。なされる仕事の「身分」は問題にされない(Kocher 2013, 930)。家事労働かケア労働かの区別もされず(Scheiwe/Schwach 2012, 329)、いまや家庭使用人のする仕事はグローバルにはっきりと識別されている(ILO 2013, 7)。


これのことだ。

2011年の家事労働者条約(第189号)

この条約は大きい。どれだけ実現してるかはともかく上に書かれた権利は国際法的には認められたことになる。

日本はまだ批准していないが、今後移民流入を増やすなら必須だろう。

 


3.2.3 解雇保護

クビを通告してから失業するまでの猶予期間が解雇保護だ。上の条約には解雇保護についての基準はまだないそうだ。なので他の職と同じようにドイツの法律に従う。

しかしどれくらいの猶予期間が解雇通知に妥当かははっきりしていない。§ 622 Abs. 1 BGBは4週間の猶予を規則として設定している。これは§ 622 Abs. 2 BGBの基準で、どれくらい長く「会社や企業の中で」労働関係が成立していたかによって延長される。ケア労働者の働く家庭が企業と格付けされるかは定まっていない。ほとんどの場合これは否定される。


つまり家庭は企業ではないとされ、保護が受けられない。しかし筆者は法学的な企業の概念を再考し、家庭も企業と見なしうるとする。

ケア労働者が働く家庭を企業と判定することは完全に可能であるので、§ 622 Abs. 2 BGBの解雇期間の延長が適応される。

 


3.2.4 労働者保護

労働者保護は、職場での衛生や健康の保護のための法制度。

上の条約189号に規定されていて、家庭労働者も国内法や慣例で適切な保護を受けることになっているという。該当する国内法は労働関連の法律ではなく民法(BGBの§ 617と§ 618)だそうだ。

 

BGBの§ 618 Abs. 1と2によると、労働者が働いていることや、宿舎していること、食事、時間的負担、健康や宗教上のニーズ、プライベートにてらして配慮されるべきである。したがって雇用者はそのために住み込み就労者に特別な配慮の責任を負い、それは被雇用者の安全や健康保護を対象とする。

 


3.2.5 労働時間

労働時間法の特別基準では、家庭でいっしょに生活しケアに従事する就労者には適用されない(§ 18 Abs. 1 Nr. 3 ArbZG)。妊娠中や授乳中の母親や未成年者でも住み込みケアで働いている人には制限された保護しかない(Richardi 2009, § 18, Rn. 18)。


ILOの条約189号で守られているのではなかったのか、と思うが、ドイツの国会では条約の条項にある権限を使って保護対象からあるグループを除外しているらしい。その言い分としては家庭で生活するケア要員は労働時間と自由時間の区別ができないし、§ 618 Abs. 2 BGBで守られているから、だそうだ。なので労働時間法を適用しない規則の枠(§ 18 Abs. 1 Nr. 3 ArbZG)に入れられている。

しかし筆者は、住み込みケアはそれに当てはまらないとしている。根拠は雇用者ではある家族の命令下にあり(Frings 2010, 68; Tießler-Marenda 2012, 110; Scheiwe/Schwach 2012, 338)、要件であるAbs. 1 Nr. 3で言う「自己責任で」の仕事と言えないから。また住み込みで家計を共有していると言ってもそれは給料のようなものでAbs. 1 Nr. 3で言う「共同体」ではないからだという。

本来なら§ 618 Abs. 2 BGBによって実現する労働時間の保護はとくに住み込みケア特徴的な性質があるため不可欠である。つまりその仕事は感情的に激しく消耗し、空間的距離が少なくケアされる人との結びつきが強いからだ。したがって労働時間と余暇時間はかなり重なっており、そのためケア労働「際限ない労働」(Kretschmann 2010, 212; ähnlich Bachinger 2010, 410; zur Empirie ILO 2013, 55ff.)と呼びうる。


労働者としての権利は国際法があったが、以下は社会保障社会保険による給付はもらえているのかについて。じっさいケア移民はあまり保障されていないようだ。


4 社会保障

福祉法典の適用範囲は§ 30 Abs. 1 SGB Iにもとづき、権利をもつ者が住まいか常用の滞在場所を国内にもっている場合のみ開かれる。

 

まさにこの必要条件のために住み込みケア労働者は要件を満たさない。彼らは国内で生活拠点を持続的に長引かせようという目的はない。


ドイツと出身国を行き来する振り子移民が多いのだった。

したがってケア労働者は出身国の社会保障制度を受けるが、ドイツの福祉法は基本的に一時的な移民に保障を許可していない。このことは、求職者への基本保障(§ 7 Abs. 1 S. 1 Nr. 4 SGB II)や、子ども手当(§ 62 Abs. 1 Nr. 1 EStG)や親手当(§ 1 Abs. 1 Nr. 1 BEEG)のような家庭助成金の給付にも当てはまる。§ 23 SGB XIIによる生活費への援助すら、物理的に国内にいることのみ前提としているが、帰国支援しか許可されない(Janda 2012, 267)。しかし一方で出身国の社会保障は、不在期間のために習慣的な在留がなりたたない場合には危うくなることがある。

 

4. 1 社会保険による保護の権利

社会保険は在留のし方ではなく就業に応じて加入が決まる。一定期間就労していて一定の収入があると有効になるそうだ。

 

4.2 私的な家庭での細かな仕事

§ 8a SGB IVでは私的な家事の中の雑務に対してさらに規則がある。そのひとつとしては§ 8a S. 2 SGB IVに規定された定義にもとづいて、仕事が「私的な家庭にもとづいていて、ほんらいはその家庭のメンバーによってなされる仕事である」場合である。そこで扱われるのは個々の資格を必要としない仕事であり、したがってまさに家庭での典型的な業務、たとえば掃除や食事の準備、さらに子どもやケアを必要とする人の世話である(dazu Reinecke 2013, Rn. 34)。

これに該当すると被雇用者は保険料を払わなくてよくて雇用者が総額を払うことになるらしい。

法定傷害保険でだけは、細かな仕事をするケア労働者は§ 2 Abs. 1 Nr. 1 SGB VIIにもとづき適切に保護される。

 

 4.3  違法な在留での社会的保護の適用可能性

違法在留をして働いていても社会保険の保護は有効だそうだ。

一方でじっさいには社会的保護を受ける権利からはやはり排除されている(Tießler-Marenda 2008, 6)。これはじっさいの雇用関係での獲得した社会保険上の請求権の行使でも、医療給付の利用権でもあてはまる。


この辺がよく分からなかったが役所に申請に行くと違法在留がバレるからじっさいには権利行使できないということだろうか。

 


5 オーストリアでの経験

オーストリアでは移民ケア労働が役所に捕捉されていて、ドイツのようなグレーゾーンが少ないそうだ。しかしこれは違法労働を暴くことが主要な目的だそうだ。

オーストリアは強い社会的政治的圧力を理由に2006年に存在する違法ケア市場の規制を決定した(Bachinger 2010, 403)。

24時間ケアはHausbetreuungsgesetz (HBeG 家庭養護法)の中で許可された。税と福祉法の規則を通じてケア要員に通告を促した。つまりその目的はとくに違法な労働契約の存在を明らかにすることにあった(Schmid 2010, 188f.)。

しかし、この合法化が家族の中で就業する移民女性の実際の状況の改善につながるかはまた別問題である。法制化は存在する違法で非公式な構造をとりあげるだけで、基本的人権との調和に努めるわけではないからだ。したがって法制化は形式的なだけで物質的には実現されず(Kretschmann/Pilgram 2011, 120; Moritz 2007, 150; Bachinger 2010, 410)、緊急に必要なケアセクターの新しくつくるのを遅らせる立法府の時間稼ぎである(Kretschmann/Pilgram 2011, 114)。

 

まとめではケア移民がちゃんと働ける法整備が必要だとくくっている。