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記事紹介: ドイツのスカーフ論争、最近の話題

またTwitterのトレンドなのだが、先週くらいまで kopftuch がドイツのトレンドに上がっていた。イスラム教徒の女性がよく髪を隠すためにするスカーフのことで、これを職場で禁止してもいいのかというのがドイツでは90年代からたびたび話題になっている。

 

スカーフ論争の過去の大まかな流れは以下の飯島祐介さんの論考を参照してほしい。

スカーフ論争とドイツの規範的自己理解の現在    飯島祐介 - 社会学評論, 2008

 

これによると、ドイツでのスカーフの禁止は、宗教や世界観における中立性を保つために行なわれる。フランスのように徹底した政教分離を採用しておらず、公共空間から宗教的なものをなくそうとするわけではない。

そのため、キリスト教を擁護している保守派の政治家が世俗主義の行き過ぎを牽制するためにあえてスカーフ禁止に反対したりする。スカーフ禁止の賛成派・反対派の内実は単純ではないらしい。

フェミニズムの内部でもスカーフ禁止に賛成・反対で分かれていて、それぞれの主張はこのブログで紹介してきた。

 

それでなぜ先週トレンドに上がっていたのか?最近のニュースをいくつか漁ってみた。

 

 

まずtagesschauの2021年2月25日のニュース。

EuGH-Gutachten: Kopftuch-Verbot am Arbeitsplatz ist zulässig | tagesschau.de

ムスリム女性の教師が職場でスカーフの着用を禁じられてもよいか?よい、そのような禁止は認められる、というのが欧州裁判所の見解だ。しかしこれは宗教的シンボル全般に適用されるわけではない。欧州裁判所の見解では、雇用者はイスラム教のスカーフのような比較的大きい宗教的シンボルは禁じてもよい。

この見解の発表がEU裁判所で2月25日にあったらしい。Twitterのトレンドに上がったのもこれのせいか。以前2017年にEU裁判所でこの件について決定があり、当時話題にのぼっていたそうだ。

[EU裁判所の]法務官は、先立っての2017年の欧州司法裁判所が行なった、他の世界観に関わるあらゆる標識も禁止するならば企業はスカーフを禁止できるという決定を参照するよう示した。

「経済的不利益の具体的な危険性」

法務局はさらに、EU加盟国が信仰の自由を守るためにさらなる規定をもうけることができると述べた。なのでドイツでは企業は「十分な経済的不利益の具体的な危険性」が存在すればスカーフのような特定の標識を職場で禁止できる。

保育園とドラッグストアでの例

背景にドイツでの2つの例がある。宗教を問わない保育園のムスリム女性の労働者はスカーフをして仕事に来たため何度も警告された。それに基づきハンブルクの労働裁判所は、人事記録の記載を削除すべきかどうかを審議した。欧州裁判所の通知によると、労働裁判所はこの手続きを直接の差別に分類する傾向があった。

ニュルンベルク地方の事例では、連邦労働裁判所は2019年に欧州高等裁判所に意見を求めた。ドラッグストアのMüllerでひとりのムスリム女性がスカーフ禁止に対して訴えを起こしていたのだ。この従業員は自分の信仰の自由を制限されたと感じたが、ドラッグストアチェーンは企業の自由を引き合いに出した。

この2つの裁判の判決がどうなったのかは書いていない。まだ決着がついていないのかもしれない。だがEU裁判所の見解に従う場合が多いと最後に書かれている。

 

 

 

次にNDRの2021年3月4日の記事。

Streit um Kopftuch: Amtsgericht verurteilt Fitnessstudio | NDR.de - Nachrichten - Hamburg

スカーフ論争: 区裁判所はフィットネススタジオに有罪判決

区裁判所ザンクト・ゲオルグは火曜日に、スカーフを理由にトレーニングできないというハンブルクの女性の訴えを聞き入れた。フィットネススタジオは彼女に補償金1000ユーロを支払うことになった。

フィットネススタジオでトレーニングのコースを修了したかった女性が、スカーフを理由にスタッフに阻まれた。

「安全上、健康上の理由」と説明されるが、野球帽で筋トレする男性もスタジオにはおり、これはイスラム教徒差別だと感じた。

苦情の手紙をオーナーに送ったが取り合われず、裁判になり女性が勝訴、ということらしい。

またこの女性は、 Hamburger Antidiskriminierungsberatung Amira という組織に訴訟手続の援助をしてもらったようで、こういったケースをよく扱っているそうだ。

 

 

 

最後にAachener Zeitungの2021年3月3日の記事。ノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW)の新しい法律についての記事。

Kreuz, Kopftuch, Kippa: NRW-Gesetz untersagt religiöse Symbole für Justiz

NRWの法律が司法官庁に対し宗教的なシンボルを禁止する

司法官庁の職員は裁判所や行政職の活動時に宗教的な特徴をもつシンボルや衣服、たとえば十字架やスカーフ、キッパをつけてはいけない。これは、デュッセルドルフ州議会が水曜日の夜に可決した法律によって規定されている。

禁止には世界観的な立場を表現するシンボルや服装も含む。この新しい規則は業務中の裁判官、検事、法務候補生や他の裁判所職員に適用される。司法に関わる者は外見上、偏った見方をしている印象を少しでも与えるべきではないとNRW州の法務大臣Peter Biesenbach (CDU) は討論の中で強調した。

この法律の発議は2018年の黒緑[CDUと緑の党の連立]州内閣のときからだ。専門識者はいくつかの点で一部にかなりの疑念を呈していた。事実上この規則はとくにスカーフをかぶったムスリム女性に適用されることになる。

さらにこの法律は顔を覆うことの禁止にも拡大する。

 

 

上のようなEU裁判所の見解、各州の法律、企業の規則はどれも少なくとも名目上は、イスラム教徒の女性のスカーフだけを標的にして禁止しているわけではない。そんな差別的なルールは大っぴらには作れないし、じっさいフィットネススタジオの事例のように明らかな不平等があれば差別と認定される。

しかし、目立つ大きさの物だけという条件や、顔を隠すことへ規制が拡大することなど、問題の中心にあるのがスカーフなのは明らかだろう。

教育や司法など、中立性が求められる職場で宗教がひと目でわかる服装を一定制限するのは理解できないわけではない。しかし一方でムスリム女性の視点から見ると、スカーフは別に宗教性を主張するアイテムではないらしい。
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この人は、 #GegenKopftuchverbot (スカーフ禁止反対)のハッシュタグをつけて、

「高齢の金持ちの男たちが成人女性に指定した衣類を脱ぐように強いていると想像してみて。考えられなくない?まったく非進歩的だと思わない?」と書いている。

コーランに書かれているのは「美しいところを隠せ」という意味のことだけで、これが「性的な部分を隠せ」と解釈されるらしい。ムスリム女性でも、どこが性的と思うかの範囲などによってスカーフをしたりしなかったり、人によって異なるのはそのためだ。たとえると、短パンを穿くか、長ズボンを穿くかという選択と同じようなことだろうか。

それが外部から見ると「スカーフ=イスラム教の象徴」になってしまうのは、馴染みがないゆえの単純化だろうし、それはやはり偏見だ。

外に出ている間ずっと当たり前にスカーフをしているなら外すのは難しいだろう。

逆に、仮にイスラム主義者が宗教的・政治的な示威行為を企んでいても、いつもつけているのが当たり前のスカーフでは喧伝の道具として成り立たないはずだ。スカーフだけでは、穏健なムスリムと外見上の差別化が図れないし、いつどこで意思表示をするかの調整もできない。

スカーフを取りたいと望んでいる人が、周囲のコミュニティや親族から強制されているという場合以外は、介入はどうしても不当になると思う。