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論文紹介:移民増加で犯罪は増えているのか?2

「警察の主な役割は何でしょうか?」先生が教室に問いかける。

「殴る」

「またそれ~?」

ここ1ヶ月ほど統合コースの学校に通っている。教室はいつも和やかだ。ドイツの文化や法律、戦後の歴史などを学ぶ授業で、長期ビザのためにはこれを受けてテストに合格しないといけない。テストは簡単そうだが毎日のように学校に通うのがめんどうだ。けっこうサボってる。

クラスは14人くらい生徒がいて、20から50歳台、男女が半々で女性は子連れが多い。出身はインド3人、北アフリカ2人、東アジア1人 (ぼく)。残りはトルコやシリアなど西アジア、東欧や中東の人たち。西ヨーロッパの人はいない。文化が近いと受けなくていいのかも知れない。東アジア人は言語コースだと必ずぼく以外にも教室に1人はいたんだけど、ここでは見かけていない。

結婚した人が税金を控除されることに授業中ひとしきり文句を言っていた若い男が、授業後他の生徒の子どもと遊んでやっていた。先生は若くて快活、多言語が話せて、反AfDだ。自国の政治の問題や、ドイツで受けた人種差別について話す生徒も。


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↑教科書はこんな感じ。ドイツでは体罰はダメ、宗教は自由、家族はさまざま、などの内容。

 

 

 

前回の記事の訳の続き。

http://www.arthurkreuzer.de/KRIMINALISTIK_5_2016_Druckfassung_Flucht.pdf

 

Flüchtlinge und Kriminalität
Ängste - Vorurteile – Fakten
Von Arthur Kreuzer

A Kreuzer - Kriminalistik, 2016 - arthurkreuzer.de

 

III. 移民の公的な認識と国民の中の不安
 

1. 不安と不安の理由

外国人それ自体でも昔から土地の人に好奇心や判断の保留や疑念や慢性的な不安を引き起こしてきた。肌の色や出自や生まれから外人と見なされる人たちが集中的に私たちのもとで滞在するためにやって来たなら、初めは不安になるのももっともなことだ。ここでは5つの具体的な不安を明らかにしたい。それは財政的な負担の危惧、住宅危機の増大、労働市場への負荷、犯罪の増加、過度な外国の影響である。
Infratest dimap[世論調査をする研究所]のアンケートの回答者の半数は難民の増加が不安があると述べていて、もう半数はないと答えている。4分の3は公的な財政の負債がふえることや、経済への損害、住宅市場の苦境の増加を心配していて、ほぼ半数は労働市場での競争を心配している。
アレンスバッハ研究所は犯罪の不安の増加を詳しく調査した。これらは数年前から増加している。これは実際の犯罪が、住居押し入りの例外はあるが、停滞するかむしろ減少していることと矛盾する。誤ったイメージはマスメディアの感情を煽る犯罪描写の結果でもある。
5年前[2011年]には3分の2が安心していて、26%が自分が犯罪の犠牲者になることを心配していたが、心配する人の割合は2014年に45%に増え、2016年には51%になった。平均を上回って心配を表したのは女性と高齢者と東ドイツの人だった。そうこうするうちに犯罪や暴力が増えるという懸念は回答者の不安のピークに達し、1年のうちに52%から82%に増加した。
そのような心配の重要な理由はおそらく劇的に増加する難民の数とパリやケルンの大晦日の事件だっただろう。当のデータでは、文化的とくに宗教的な過度の外国化や、ドイツやヨーロッパのアイデンティティの喪失への心配についてのデータはないが、Doug Saundersは彼の著書『過度の外国化という神話』の中で、このような不安が広く西洋諸国の政治の中心に入ってきたというところから始めている。
以下のような3つの兆候がある。ムスリムは人口の6%未満しかいないのに、何千もの人がことあるごとにペギーダの「西洋のイスラム化に反対する愛国心あるヨーロッパ人」という呼びかけに賛同する。

国会議員のErika Steinbachは、移民の子どもの集団の中に一人金髪の少女がいて「君はいったいどこから来たの」と問う写真ツイートをネットに拡散した。
AfDはイスラムの宗教と政治的イスラムイデオロギーを同一視したがり、イスラム支配の象徴のミナレット [イスラム寺院の塔]やムアッジンの呼びかけを禁止すべきだという。このようなキャンペーンは偏見や誤ったイメージや反応を作り出す。

 

2. 偏見を生む度を越した不安の帰結

このような過度な偏見を生む不安は不安ヒステリーの風土を助長する。その風土の中ではいまなお感じられる歓迎の文化が妨げられ、社会が分断されかねない。以下のような個々のネガティブな影響が問題になる。犯罪の規模や原因の誤ったイメージは日々の犯罪行為の間違った認識や原因帰属につながる。多くの女性が田舎で車のハンドルをにぎっているときに近くの難民施設から来た肌の色の違う人に攻撃されうると感じている。たとえば調査で明らかになったことによると、言語に精通していない身ぶりをして遠くのアジール宿舎にもどる助けを求める若い男性が問題にされている。
キールの警察は、2人の若いアフガニスタン人男性がショッピングセンターSophienhofで3人の少女に粗暴につきまといケータイで撮影して写真を第三者に送り、暴徒の仲間を呼んだと伝えたが、この話全体が一連の誤認と伝達ミスだったと明らかになった。このような風潮では噂の温床が増える。ロシアの外相によってでっち上げられた話では、3人のアジール申請者によって誘拐され拉致され絶え間なく暴行されたとされるロシア系ドイツ人の13才の少女「リサ」は警察の保護を拒まれたという。この作り話が我が国のロシア語話者の不安を煽ることを狙った偽情報の政治に悪用された。700人のロシア系ドイツ人のデモ隊がそれに基づいて「私たちのリサ」と連帯し、彼らのマイノリティ性や国全体の危機的状況を申し立てた。実際にはその少女は学校の問題で両親から逃れて親友のところにいた。

 

↓この件のことなんだけど、このニュースだとドイツかロシアのどっちの言い分が正しいかわからない書き方になっている。

独と露、ベルリンの少女暴行疑惑めぐり非難の応酬 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 

続き↓

不安を煽ることのさらなる帰結は、国家の保護ではもう十分ではないという感覚に繋がりうる。実際、アンケートによると6人に1人が日常の行動を変えているという。とくに若い女性が順応している。自己防衛訓練に参加することや、いっそうの気配りをねらって隣人と連絡を密にすること(隣人監視)であれば意味があるだろう。また市民の勇気も歓迎されるべきだ。市民が緊急時や攻撃の状況で救急や警察にすぐに報せるべきで傍観するべきでない。しかし、自警団の組織や自己防衛武装となると危険だからやめなさいと警告されるべきだ。

自警団は国家による暴力の専有を内部から弱らせ、自力と自発的な行為での救助保安官の考え方を促進し、しばしば頑なな極右組織になる。最近、市民の武装化は急増している。CS刺激ガスや唐辛子スプレー、目眩まし用特殊ライト、スタンガン、威嚇用拳銃の購入がブームになっていて、「小武器免許」の申請も急増している。
しかし犯罪学は武器が見せかけの安全しかもたらさないことを証明している。銃は言わば逆にこちらに発射されるのだ。武器が民間の手にわたるほど、適切でない武器の動員が多くなり、身体的な極限状況でカッとなって家庭内の争いで武器が使われ、自分やパートナーを殺すことになる。武器は子どもの手にも届き、遊んで事故を引き起こす。害のない事態が正当防衛の状況だと誤解される。実際には想定されている被害者の武器使用よりも攻撃者が先に使う。犯罪の準備をする武器所有者は武器を襲撃のさいに使う。

さらにこのような不安の風潮は周知のように政治的な変動にも導き、とりわけ党の風土が変わる。政治の公開討論に悪影響が及ぶ。極端な党、とくにAfDのような外国人敵視の政党がはっきりした政治的立場を代表できるようになる前から急に隆盛する。
それらの信奉者はテロ容疑者の予備拘束や死刑、自警団、私的武器取得の規制緩和ムスリムの宗教活動の画一的な禁止を要請している。

結局こういった風潮では、上述の外人やその宿泊所に対する犯罪が増える。さらに自警団界隈を刺激する。

 

IV. すでに起きた移民流入での経験と知見


ドイツは1945年のあと多様な移民流入を経験した。ときには、とくに親の関心がなく土地に馴染む機会が少なかった後続の世代の若者において、犯罪の問題が生じることもあった。おおむね移民は社会生活を豊かにした。たとえば、戦後の復興、労働市場の活気づけ、文化の多様性、飲食店営業、そしてまた高齢者に偏った人口の対抗要因[若い男はおおく戦死していた]として。ここに生きる5人に1人は外国の、少なくともルーツをもっている。

とりわけ旧東ドイツからの1400万人の難民と追放者はすぐに統合された。彼らは負担調整[旧東ドイツへの補償]で財政支援されすぐに集められて住居に誘導された。彼らは宗教文化の指向が同じで復興に参加する準備は万端で、戦争による人口の損失を補った。
さらにとくにスペインやイタリア、ギリシャから、社会的な歪みもなく今日まで継続している移民流入が進み、数十万人が 「客人労働者」としてやって来て、たいていは家族をつれてここに定住した。
ソビエト諸国からの約400万人の後期帰還民[東欧から西ドイツに引き揚げた人たち]の統合はそう円滑に進まなかった。第一世代はドイツ語を習得したが、第二世代はほとんど習得しなかった。多くの若い「ロシア系ドイツ人」はここで疎外感を感じ、あまり受け入れられていないと感じた。犯罪グループ出身の経歴をもつ者もいた。そしてこれがたとえば、「ロシアンマフィア」のことが話題になった少年院での反動的なカウンターカルチャーの固定化につながった。

さらにまた移民と難民はポーランドや南東ヨーロッパやボスニアコソボの内戦地域から来た。部分的に彼らは宗教や文化的に異なった指向をもっていて、かなり前からすでに風紀が乱れていて、それによって統合の困難や、また当地での犯罪傾向のあるふるまいもこれら若い定住移民で生じた。

私は青年犯罪の研究で1970年に「ロッカー集団」[バイクを乗り回す集団]の中の暴力活動を明らかにした。そこではたいていは若いポーランドやロシアからの反社会的な定住移民が参加していて、同様に当時アパートに住む高齢の独り暮らし女性をねらった孫詐欺や、ルーマニアから引っ越してきた特定のロマ族の家族を通じた連続路上ひったくりを計画的に行った。

とくに統合の問題はここ数十年で数百万人のトルコの「客人労働者」の第二世代によってもたらされた。彼らは主にアナトリアの貧しい地域出身で私たちの国に着いた父親たちの家族呼び寄せで同行してきた。私たちは「客人労働者」を一時的な滞在だと予期したがそれは外れていた。そのため統合はタイミングよく広範囲には援助されなかった。とくに第二世代は困難に晒され、ずっと土地の人間としての学校や職業訓練や仕事でのチャンスに恵まれなかった。そこからも今、難民はできるだけ早く支援し統合を求めるという結論を導かなければいけない。

これに関連して、イスラム教の国出身の若い定住移民の異なる文化的な考え方や宗教から生じる困難があるという。とくによく言われるのは、オリエントの家父長制的な思想に影響された女性に対する考え方である。多くの犯罪学研究が国籍、宗教、犯罪の関係に取り組んでいる。

 

研究成果を4つのテーマにまとめる。

 

1. 国籍は犯罪に影響する要因ではない。

 

2. 宗教は直接的な影響を通して、または価値観を仲介して社会化の中で社会行動を形成する。ただし両価的である。とりわけ聖典を字義通りに信じる、原理主義的で批判に欠け、啓蒙に反対する、絶対的真理を伝導するサラフィー主義やいくらかの福音主義の集団のような宗教的な導きは暴力を誘発する。寛容、全生命への敬意、慈悲、赦し、鎮静に重きをおく穏健な宗教的方向性は暴力を抑制する。

 

3. 生徒や大学生の研究では、相応するしつけや模範を介して、イスラム教の出自の移民家族の若者はドイツ人の比較集団よりも強く体罰の経験を報告した。いくらか弱いがこの関連は若いロシア系ドイツ人の若者でも表れた。個人のふるまいにおいて暴力に走りやすいことや刑罰に対する厳しい見方は一部これに起因する。

 

4. 予防政策や統合には効果がある。なので政策を経て、しつけの仕事の中での暴力傾向はドイツでは明らかに減少している。

 

数十年にわたる旧DDRからドイツ連邦への亡命については語られないままだった。それは十分問題なく進行したが、公式には計画的に偽って「政治難民」だとして釈放された若年層の一部でかなり深刻な犯罪問題もあった。実際問題になったのはすでに身についた犯罪傾向をもつ平凡な反社会的な人々だった。その傾向を、彼らはここで多くの自由と誘惑の条件下で発揮できた。それについて話すことは政治的によい時宜を得ていないと見なされていたが、例外的に私はFAZ紙で1981年に見解を述べることができた。

 

これ以降は犯罪防止策の提案が箇条書きされている。大きなイベントには監視カメラや警備員や警察が必要なこと、移民の情報をEU諸国間で共有すること、統合政策を進めることなどが書かれている。

報道に関するところだけ訳すと、
 

V. 犯罪予防の試み

犯罪防止のために必要な試みを箇条書きでのみ概略を述べる。警察や他の警備サービスの予防策に対する考えから社会政策の統合措置まで含む。


 警察とマスメディアに対して、誤って理解された「政治的正しさ」のせいでしばしば容疑者の民族的な出自や難民であることを秘匿してきた、と批判がなされている。しかしもっともなことだが、出版協議会は3月に出版倫理綱領の規則12.1に、「犯罪についての報道では、容疑者や犯人の民族的、宗教的また他のマイノリティへの所属については、報じている事件の理解に根拠のある関連が存在するときのみ言及する」と明記している。事件との関連はケルンでの不法行為の際には確かにあった。このような根拠のある関連付けを放棄すれば、特徴を名指しすることで誤った因果関係を匂わせ、全体をひとくくりにしたり差別を助長したりする可能性がある。

 

先月のフランクフルト中央駅で、40歳の男が8歳児押し死亡させた事件で、犯人の男はエリトリア出身で2006年からスイスに住んでいたという。これも移民の情報をEU諸国間で共有していれば防げたのだろうか。事件の数日前にドイツに来たばかりだからあまり関係はないかもしれない。

日本の外務省から在独日本人に送られてきたこの事件に関するメールでは、エリトリア国籍で13年間スイスに住んでいる犯人を単に「アフリカ出身」とだけ書いていて非常に雑な印象を受けた。

 

外国人敵視の風潮が高まったときに自警団を作ったり武器が売れたりするのは、日本とは違うところだと思う。日本だと銃に対する忌避感がある。

それに日本では右派は、警察に対する信頼が強い。外国人排除の街頭デモを警官が囲んで守る光景は日本の大都市でよく見かける。ドイツの警察内にも極右分子はいるだろうけど、組織としてああいうことはできないと思う。

そういう違いはあるけど、グローバル化した外の世界から外敵がやって来るから武装して平穏な都市や都市郊外の生活を守ろう、という世界観で作られるディストピアは現代のひとつの典型だと思う。右派ポピュリズムオーウェルの『1984年』に例える話はよく聞くけど、これはどちらかと言えばポール•セローの『O=ゾーン』の世界に似てきていると感じることが多い。

 

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すごい面白いから読んでほしい。