記事紹介:ドイツでのハラール
移民の記事を読んでいてイスラムに興味をもったことと、モロッコ系の友人に旨いモロッコ•トルコ料理屋に連れられたこと、あと外食店で調理の仕事をしていることもあって、ハラールに興味をもった。なのでそれについていくつか読んでみた。
そのハラル大丈夫?―週刊東洋経済eビジネス新書No.92 https://www.amazon.co.jp/dp/B06XQXQCJS/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_.SeQDbM1S4NX6
イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書) https://www.amazon.co.jp/dp/B00UH9MTBM/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_MUeQDbV27ZTRK
日本語では上の2つを読んだ。ハラールはイスラム教の教えに即しているという意味で、豚肉を食べないとかアルコールを飲まないとかが代表的だ。ハラールを守っている証明になる認証印がたくさんあるが、酒を出す飲食店に認証を与えるような怪しい会社もあると『そのハラル大丈夫?』に書いてあった。
ハラールで何が禁じられ何が許容されるかはコーランの解釈に依り、大筋は同じでも細かいところは国や地域、個人によってさまざまに異なる。イスラム教には神やコーラン以外の権威があるわけではなく、神と個人の関係に他人が口出しするのは良くないと考えられている。そのため認証印のような外から決める制度には否定的な意見もあるようだ。上記の2つの本もそうだった。
ドイツでのハラールの状況はどうだろう。ネット上の記事を3つ読んだ。
Halal-Siegel: Einkaufshilfe für Muslime? | Lebensmittelklarheit
https://www.lebensmittelklarheit.de/informationen/halal-siegel-einkaufshilfe-fuer-muslime
「ハラール認証。ムスリムの買い物の助けになるか?」という題のこの記事によると、
フランスにはオーガニックとハラールの肉が売られていて、ロンドンのマクドナルドにはハラールバーガーがあり、イギリスのスーパーにはハラールの棚があるなど、ハラール市場は拡大しつつある。ドイツでも需要は高まっている。
ハラール認証は多様にあるが消費者に訴求力があるとは評価しにくい。
フランスやイギリスの状況が書かれていて、それに比べてドイツは進んでいないとまでは書かれていなかったのだが、少なくともぼくはドイツのスーパーでハラールコーナーを見たことがない。ハラール専門店は多くあるが住み分けされているという印象だ。
ハラールか否かはイスラム法学者の原典解釈によってさまざまに異なる。
ハラール認証印
ヨーロッパの現在の食品品質表示ではハラールを正しく選択するのに十分な情報ではない。そのためハラール認証印が助けになるが、ヨーロッパの食品法ではハラール食品表示は法的に保護されていない。しかもハラール認定や遵守しているかのチェックをする機関もヨーロッパにはない。
そのためさまざまなハラール基準があり、要件目録を作成しているところもあるが、ハラール認定印だけでは判断しにくいのが現状だという。イスラム学法者が製造業者、小売業者、立法者と協力して、ハラール表示に関する拘束力のある最低要件を確立することが不可欠だと締め括っている。
家畜の屠殺のし方もハラールが決まっているそうで、麻酔をかけて屠殺するのはハラールではない。しかしドイツの法律では逆に麻酔なしの屠殺が原則禁止されていて(ハラール屠殺肉の輸入は可)、動物保護の観点から麻酔を認めるイスラム法学者もいるという。
屠殺に関しては別の記事もあった。
Halal-Schlachtung - BZfE
https://www.bzfe.de/inhalt/halal-schlachtung-1153.html
麻酔をかけて屠殺するのがハラールではないのは、死骸禁止に抵触するかららしい。どれだけ厳しく実施しているかは宗派や法学者によって異なり、麻酔なし屠殺にまったく根拠がないとする解釈もあるという。
儀式的な屠殺は、動物の食道と気管と頸静脈と頸動脈をよく切れる刃物で一切りにしないといけないことになっている。それらはアラーの名を呼んで行われ、信徒が動物の命を奪う許可を請う。
ドイツでの麻酔は動物保護の観点から行われているが、ハラールの屠殺にも被創造物の尊厳を守るための動物保護の観点がある。断末魔を他の家畜に聞かせないこと、屠殺される家畜は落ち着いた環境で不要な不安やストレスを与えないようにするという規定があるという。それでもやはり麻酔は必要という議論が強く、連邦獣医団体も短時間の麻酔などを求めているそうだ。
もうひとつ、実り多き未来の市場というタイトルで、ドイツでもハラールの需要が高まっているが小売業にこの主題がまだほとんどいきわたっていないという記事。
Halal-Produkte: Warum ist das Angebot in Deutschland so gering? - SPIEGEL ONLINE
ハラール対応商品は化粧品にも及ぶそうだ。原材料だけでなく、コーランには礼拝の際に手や顔を清めるように書いてあるため、マニキュアなどは水ですぐ落とせるものでないと不便だ。しかしそういう商品がまだ少ないという。生活全体にわたる考え方としてのハラールはビジネスではほとんど注目されていないという。ハラールの規格としてマレーシアのJakimやインドネシアのMUIやSMIICなど多くあって分かりにくいそうだ。
あるモロッコ人女性はハラール対応の化粧品があると知り、「カナダなどはこの点で進んだ国々だ」と言い、ネットでフランクフルトのプロバイダーから購入している。
ドイツでは多くの企業がハラール認証の化粧品をネットで売っているが、要件がさまざまで見かけの透明性があるだけだ。スーパーやドラッグストアでハラール認証の製品を探しても無駄に終わる。
フランスなど他の国はもっと進んでいるらしいが、ドイツの有名なドラッグストアや化粧品会社に問い合わせてもやはり重視していないという。ハラール認証製品を扱うコンツェルンもあるが国内用ではなく輸出向けだそうだ。一方でハラール市場は成長率が高く、まだ眠っている市場も大きいというデータが示されている。ドイツのまとまったデータはないが、取材されたケルンの企業もネットなどで売上を伸ばしているそうだ。
社会学者のSahinözは「ドイツのムスリムの若い世代でハラールに生きることへの意識や関心が明らかに高まっている」と確言する。
ではなぜドイツの大型小売店の陳列棚にはそれがほとんど反映されていないのか?とこの記事は問う。イスラムの主題は感情的になりがちでハラール商品の社会的な受容が少ないのだという。
「ハラールを促進しようという政治上の意思はまったくない」と"Halal-Welt"という機関の設立者で編集長のKemal Çalikは言う。Çalikは、今日までドイツにはハラール認証の関心事を担当していると自認する中心的な地位がないと批判する。また啓発も少ない。
(チョコメーカーの)Tobleroneが山型チョコにハラール認証をとらせたりイスラム会議にブラッドソーセージ[血はハラールでない]が給仕されると、ソーシャルメディアは大騒ぎする。
ドイツでそういう関心が当たり前になってほしいとÇalikさんは言っている。
ドイツにいるムスリムの数だけでも感情的に論争される。
正確な総数がよくわかっていないらしいが公的機関の2015年のデータだと440~470万人で、AfDは「もっと多い」と言っていて、もっと少ないとする研究もあるという。
ただ増えているのは確かで、シリアやアフガニスタンから多く移民が来ている。かつてはドイツにはトルコ系移民が多かったがトルコのハラール産業だけではすでに今のムスリムの移民の多様性には追いつかなくなっている、とSahinözさん。
Peter Bungenbergさんは栄養、商業、アラビア製品のロビイストで同僚のOguz Evlerさんといっしょにドイツのハラール推薦印を統一しようと計画しているそうだ。
「ドイツの商業ではそれらはハラールつきだと理解した上での拒絶に遭う。私はムスリムが今のところ意図的に見ないようにされていると主張している」とBungenbergさんは言う。
130万人のドイツのビーガンと比べて対応が少ないと彼は言う。Bungenbergさんらはいろいろ探したあと、広く受け入れられているマレーシア政府公認のJakimに決めたそうだ。これのこと↓。
マレーシアハラル(JAKIM)とは | 株式会社ハラルデベロップメントインターナルジャパン (HDJ)
すでに推薦印の認定を進めているが問題もあるらしい。
「ポピュリストに煽られたイスラムの否定的なイメージが商品にふりかかるという大きな不安が覆っている。」
Norbert Kahmannという人はこのスリリングな分野にまた違った評価をしている。彼は、2011年3月のハノーファー産業及び商業会議で設立されたHalal & Koscherの創設メンバーだ。彼はドイツの香料調味料のメーカーで主に品質保証の仕事をしている。
彼が言うには、スーパーの化粧品の多くはすでに、統一の認証なしでも、調合を変えなくても、ハラールに役立つ。彼の団体の活動はインドネシアでの抜本的な政治改革に理由があるそうだ。
インドネシアは2億6000万人という最大のムスリム人口をもつ国で、今年の(2019年)10月からすべての商品にハラールの表示をつけなければいけなくなる。これはドイツの輸出業に挑戦を突きつける。
Kahmannは今は、統一の認証には批判的だという。ハラールの要件は国や生活圏によって多様すぎて最大公約数的にまとめることはできないそうだ。世界的に知られる認証発行者のHalal Controlが受け入れられているドイツでもそうだ。
これのこと↓らしい。
HALAL CONTROL - Our Standards. Your Assurance.
しかし、Peter BungenbergとOguz Evlerは全ドイツの統一的なハラール推薦印を作る計画を思いとどまることはない。彼らはすでに次のステップを計画しており、認証問題を支援するハラール専門センター、さまざまな言語でハラール製品を詳述したアプリを進めている。「私たちには理想がある。しかしそのためにムスリムからと商業からの支援が必要だ。」その両方を取りつけるのは難しいが彼は自覚している。
ドイツのムスリムの総数がよくわかっていないという記述があったが、フランクフルトのムスリムについては2006年のデータがあった。
Muslime in Frankfurt am Main - Ergebnisse einer Schätzung, FSB 2007/4 - frankfurt.de
2015年に移民が急増したので今はもう少し多いだろうけど、それでも11.8%いる。ドイツ全体だと、さっきの数字では今は440~470万人なので、5.4~5.9%くらいか。さすが国際都市フランクフルトだ。市内の人口比の分布を見るとだいたいモスクの位置に対応した感じ。
新しいデータが見つからないのは右翼がうるさいからだろうか。モスク襲撃とかもあったしな。
住んでいる実感ではトルコやアラビア料理のレストランはこの地図のInnenstadtと書かれた区画に多い。レストラン自体が多いところだけど。シーシャが吸える店やブルカのブティックもある。モロッコ系の友人も「この辺は自分に似た顔が多い」と言っていた。フランクフルトのハラールのレストランはトルコや中東料理以外では東南アジア料理屋しか見つけられていない。
中東の料理本も読んだのだった。料理好き音楽評論家のコラムとレシピが書かれた良本。またモロッコ料理を作ってみる予定。肉とイチジクなどの果物を合わせるらしく、ぼくが好きなやつだ。
おいしい中東 オリエントグルメ旅 (双葉文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/457571402X/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_vNdSDbW2AKJP4