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論文紹介: ドイツの移民ケア労働者 前編


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ポーランドの移民女性の家庭使用人、マグダが活躍するドイツの人気ホームドラマ

 

Twitterにこんな書き込みが、


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下の記事のような話についてのようだ。

ノルウェーでオペア制度廃止の議論 裕福な家族がフィリピン人女性子守りを搾取する温床に(鐙麻樹) - 個人 - Yahoo!ニュース

女性の社会進出の裏にケア労働で搾取される移民がいる、という話でフェミニストを糾弾する人はそもそもケア労働は女の仕事だという前提で話している。しかし、男も恩恵に与っているではないか。

これはまったくその通りだと思う。

そしてどんな業界にも一般的に搾取はある。

それもその通りなんだけど、とくにケアの領域で搾取が起きやすいこと、そしてそれが女性の「輝かしい社会進出」と対照をなしていることには注意が必要だ。

もし、家事やお年寄りや子どもの世話のようなケア労働が、弁護士や銀行員と同じくらい社会的に評価されていればこういう構図にはならないだろう。ケア労働はたまに思いだしたように、立派な仕事だ、献身的だ、と褒められるものの、ふだんは忘れられ大して給料を貰えていない。

ケア労働は女性の仕事と見なされることが多く、ケア労働の軽視と女性差別は関連している。じっさいキャリア志向なリベラリズム的なフェミニズムに対してフェミニズム内部でも批判はある。

 

ドイツでの移民のケア労働者をめぐる状況について論文を調べた。以下の論文は主に法律について書かれている。

http://www.ethik-und-gesellschaft.de/ojs/index.php/eug/article/view/2-2013-art-2/51 [pdf]

http://www.ethik-und-gesellschaft.de/ojs/index.php/eug/article/view/2-2013-art-2

Constanze Janda

 

Feminisierte Migration in der Krise? Pflegearbeit in Privathaushalten aus aufenthalts-, arbeits- und sozialrechtlicher Perspektive

女性化された移民は危機にあるか在留、労働、社会福祉の観点から見た私的な家事でのケア労働 

 

Constanze Janda

要点

  • ドイツでは福祉による介護給付だけでは足りず、移民がよく家庭労働に雇われる
  • ケア労働をするのは東欧や非EUからの移民が多い
  • ケア労働の需要はあるが募集のための法的な枠はあまりない
  • そのため移民ケア労働者は不安定な働き方やときに違法労働をよぎなくされている

 

1. 導入

2007年の住宅投機による経済危機でEUで失業率が上がった。これは移民にも影響し、失業者が職を求めて移住したり、また移民が仕事をなくして帰国する動きもあった。低賃金で条件の悪い仕事でも自国民が行うためだ。ドイツ国内で失業した移民にとって、移民権は在留できるかどうかに関わる。さらに労働や福祉的な保護も問題だ。

ドイツでは「家事は夫婦両方の責任」と民法で決められており、就業は夫婦両方の権利だという。

そのため女性の就業は増え、家事は家庭外の労働力に割り当てられる。きっかけはさまざまで、高齢者やケアが必要な人が増えたことや、また職業のため家事に必要な時間がなくなったこと(いわゆるケア欠損, Lutz 2013, 1258; Moritz 2007, 151; Frings 2011, 82) などだ。また女性の就業で家庭の収入が増えて、雇いやすくなった。

1.2 女性化する移民

しかし、それによって性的役割分担は変わらず、家庭労働はあいかわらずおもに女性がしている。IAO(国際労働機構)の報告では世界に5200万人の家事労働者がいる。そのうち83%が女性だ(ILO 2013, 20)。なので家事は再分配されているが(Lutz 2002, 88; Hess 2008, 109)、ますます多くの移民女性がやっている。

この社会的な地位を専門用語で「女性化された移民」という。昔ながらの家事労働を他の家庭で引き継ぐ女性の移民のことだ(Granato 2004, 2)。女性は、男性(労働)移民の家族としてではなく、ひとりで自分の目的をもって入国する。彼女らは仕事で家計に多大な貢献をする(Lenhart 2007, 32; Apitzsch/Schmidbaur 2011, 46; Morokvasic 2009, 28; Liebig 2011, 19; Spindler 2011, 173)。

女性化された移民は、短期間・一定周期で行われるという特徴がある(Apitzsch; Schmidbaur 2011, 46; Lutz 2013, 1258)。たいてい、長期在留したり生活の場をそこにおちつけるつもりはない。またたいてい、複数の国に移住はせず、出身国から同じ国に何度も来る(Zerger 2008, 1; Parusel/Schneider 2011, 248)。これは、故郷に残してきた家族を手放さなくてすむので移民女性の利益になるし、特定分野で短期の労働力需要を満たせるので受け入れ国の利益にもなる。

この現象は新しいものではなく、鉄のカーテン崩壊以来、とくにEUの東方拡大のあと重要性を増してきて(Lenhart 2007, 30)、中欧や東欧の国民と関連してきた(Lutz/Palenga-Möllenbeck 2010, 421)。この「新しい」EU市民の就労自由期間が終わってからは、移民の動向は第三国に移った。
 

 

1.3 「ケア緊急事態」と女性化された移民

女性化された移民はいろいろな観点から語られるが、この論文は重要性の高さのためケア移民の法的な条件範囲に焦点を当てる。そこで果たされる仕事は典型的に女性的なものだとされ、人目につきにくく、そのために困難な条件で行われ、社会的に価値ある仕事として認知されにくい(Morokvasic 2009, 29f.)。在留法の条件の間隙や不明瞭さと、脱法的な手配を利用する特徴がある「グレーなケア市場」の存在は立法府もしぶしぶ認めている(BT-Drs. 17/8373, 1)。

このあと社会福祉法(SGB)について書かれている。日本の介護保険制度に当たるものがドイツで施行されたのは1995年だ(日本は2000年)。それまでは介護は妻や娘や息子の嫁など個人でしていたが、保険加入者の共同責任になった。在宅や通院での介護の現物支給や費用の負担補助があるが、それは十分なものではないという。なるべく家庭や地域でするものという方針があるそうだ。

ここまでは日本と似ているだが、ドイツでは福祉で足りないぶん東欧やその他の国からの移民を雇い、彼らが住み込みで働いてケア労働をするようになったという。

 

2 女性化された移民の法的な条件範囲

外国人の入国と在留、また就労は国家の法にしたがい許可保留つきの禁止を受ける。以下はケア労働をしている移民の法的な位置づけが詳述されている。

 

2.1 EU市民の女性の在留と労働市場参入の権利

外国人でもEU加盟国の国民とその他の国で条件は違う。EU市民の女性には制限はない。彼女らは、ドイツ連邦でも他のEU加入国でも在留と就労は特別の許可は要らず自由だという。国籍による労働条件の差別も禁止されている。

しかしこの差別禁止そのものはふさわしい労働条件と賃金の保障を約束するものではない。ドイツのケアの分野では労働条件はたいてい国籍に関わらず不安定だ。家事やケアでのサービス業の自営での提供はArt. 56 AEUV[EU労働基本条約]でサービス業の自由として保障されている。

 

2.2.1  就労者自由参入権の暫定規定

EUではEU市民は移動も就労も自由なのだが、ドイツなどでは、国内の労働市場を守るために東欧の国にたいして一部規制をかけていた。

自由な移住はEU全体で認められたわけではなく、各国が2+3+2ルールと呼ばれる規則にしたがい段階的に自由な移住を容認するかどうかを自分たちで決めた(Fuchs 2010, 980; Nowak 2012, 13)。重要なのは現在この猶予期間はクロアチアにたいしてだけ残っていることだ。ブルガリアルーマニアの国民は2013年12月31日に暫定期間が満了し完全に平等な立場を得た。

したがってEU市民女性のヨーロッパ内部での移民動向は法的には自由だ。彼女らのケアの仕事への参入の問題もない。そのため就労のために乗り越えるべき法的な障壁は少なく、実際的な障壁がある。これらの障壁は、搾取的なことがおおい就職や労働条件の交渉のさいの雇用者の差別的な態度にある(Spindler 2011, 171; ILO 2013, 45)。ブルガリア人とルーマニア人就労者の住み込みケア労働者としての就業の需要は減少するだろう。なぜなら自由な参入の承諾を得て、よりよい給料と整備された労働条件の見通しがあり、もはや魅力のない仕事に頼らなくてもいいからだ(Schmid 2010, 190)。

クロアチアについても現在は2015年いらい完全に門戸開放されている。

独がクロアチアに労働市場を完全開放、7月に就労制限撤廃 | FBC

この論文は2013年のものなので例外的だったクロアチアについて詳述されている。このときは国内の労働市場を守るための規制がかけられていた。

 

 

2.2 第三国の国民の在留と就労の参入権

EU以外の外国、第三国は入国も就労それぞれ法で制限されている。

入国にはパスポートとビザが必要で(§§ 3, 6 AufenthG)、在留には在留資格(§ 4 Abs. 1 AufenthG)、就業には法令か官令の許可が要る(§ 4 Abs. 2 AufenthG)。

稼ぐため繰り返し何度も移住することは在留法では想定されていないが、可能だ。

すでに在留を法的にまとめることは、何重もの官僚的障壁に結びついているため難しくなっている。在留資格の授与は、§ 5 Abs. 1 AufenthGにしたがい、生活費の保証と十分な医療保険があることを前提とする。

じっさいには旅行ビザを利用する場合もあるという。

在留が認められても就労が認められるわけではなく、別に許可がいる。

在留法には、政治的理由や人道的理由で難民やその家族を受け入れるための枠があり、それらの人も働ける仕組みがあるが、ケア労働を担っているのは典型的にはそれらの難民ではない。ケア需要を満たすという、もっと実利的な理由で就労が促進されているという。

しかしケア労働力の著しい需要にもかかわらず、ここ分野での体系だった就労者募集の努力はみられない。これらの職務はむしろ1973年に発せられた募集中止がいまだに効いている(Keller 2005, 30; TießlerMarenda 2008, 5)。

募集停止というのは、ドイツ国内の労働者の雇用を守るための外国人の就労制限である。

したがって、それらは連邦労働局(BA)の同意での就職を目的とした在留資格の授与の枠内でのみ許される(§§ 18, 39 AufenthG)。

ケア労働力としてドイツ連邦で働きたい移民女性は、滞在資格に加えて、優先度審査に合格し、国内の労働者と同じ条件で仕事をしないといけない。

優先度審査というのは、高い能力をもった外国人の就労を優先して許可するための審査で、資格や経験が必要である。これらを満たすのは不安定な住み込みケアワーカーではたいてい難しい。じっさいには安く使えるケア労働者の需要があるが、表向きには「能力の低い移民はいらない」というのが基本的な態度になっている。

§§ 18, 39 AufenthGにしたがい在留資格が授与されると周期的な移住が可能になる。この資格は§ 51 Abs. 1 Nr. 6 und Nr. 7 AufenthGにそって単に完全に出国してしまうか、外国に6ヶ月以上続けて滞在するだけで失効する。

 

 

2.2.3. 女性化された移民を可能にする特別規則

立法府は§ 42 AufenthGの中で管轄の連邦労働福祉省(BMAS)に、法令の形で移民の労働市場参入権を細かく規定する権限を与えている。

BeschV(就労令)で職種ごとに決まりを定めている。

それもふくめてケア労働をできる可能性があるものは、オペア(§ 12 BeschV)、派遣の家事使用人(§ 13 BeschV)、家事手伝い(§ 15c BeschV)、ケア労働力の派遣(国際法社会保障協定)、自営業を目的とした在留許可(§ 21 AufenthG)の5つ挙げられている。結論から言うとこの5つの枠のどれもケア労働が利用するのは難しい。

「オペア」がまだ比較的かんたんそうだが、もともとケア労働のための制度ではない。子守りや家事を手伝いながら外国語や異文化を学ぶための制度で、働く家庭に18歳以下の子どもがいないといけないとされている(DA 2.20.114 zur BeschV)。

「派遣の家事使用人」は、適応範囲が狭い。1年以上家庭労働参加をドイツで望んでいて、かつ会社などから派遣されなければいけない。ふつうに移民してこれを利用するのは不可能だ。

「家事手伝い」は、

§ 15c BeschVにより、社会保険加入義務のあるフルタイムの家事手伝いを目指すときのみBA(連邦雇用庁)の同意が得られる。家事手伝いという概念は誤解を招きやすいが、この用語は§ 14 SGB XIでいうケアが必要な人のいる家庭での仕事でないといけない(DA Haushaltshilfen 4.3.3)。したがってたとえば自分の世話がまったくできない認知症の人のような人の世話でなければ§ 15c BeschVでは可能にならない。

この仕事は家族によるケアや資格をもたない人にも働き口を取られることがあり、不安定である。

家事手伝いとしての仕事は最大3年まで許されるので一時的なものになり、雇い主は人員を入れ替える。さらにBAの同意の前提条件は家事手伝いの人の出身国の労働管理局の斡旋協定を必要とする。そのような協定はこれまで第三国と結ばれておらず、今のところ第三国の国民にこの移住ルートは開かれていない。

「ケア労働力を派遣すること」は、EU内の国の企業にはサービス業の自由として認められており、EU外の国には社会保障協定をドイツと結んでいる国に認められている。これらは企業のための決まりだ。労働法は出身国の法に準じる。

注目すべきは、派遣は短期間しか許されておらず、さらに連続派遣として延長はできないということだ。それをこえると老人介護師の認定職業資格が必要になる(Frings 2010, 67)。じっさい自分で調達するケア労働力にとって派遣は合法的に国内で働けるようになる選択肢ではない。

「自営業」は起業家ためのもので多くの投資と将来性が求められる。

 

 

以上のように、需要はあるのに、EU以外の国から来たケア労働者が合法的に働くのは難しい。

移住法は規則の適応対象として男女を区別しない。しかし規則は特定の役割分担を再現する。たしかに立法府は高い資格をもった労働力の移民流入を促進してきた。高い資格をもった就労者、指導的地位、管理職、あるいは学問やIT部門などでの女性の割合は比較的少ない(Keller 2005, 36; Shinozaki 2009, 76; Kofman 2013, 580)。圧倒的に女性が行っている教育やケアでの仕事はたいてい安定した高い資格の職とは認められていない(Shinozaki 2009, 71)。また資格となる職業経験も条件付きでしか助けにならない。高資格者移民の永住は学んだ職業で仕事をするという前提条件の影響下にあるからだ。したがって女性化された移民はたいていの場合、資格がなく価値の低い雇用で、それは制限にさらされている。つまり、移民してきた女性は高資格の職に就くチャンスもドイツに永住する展望もほとんどないため、高い資格を持っている場合でさえ「伝統的に女性のもの」とされる職を割り当てられる。彼女らの移住事情は「低い資格」で特徴づけられる(Keller 2005, 37; Liebig 2011, 29; Morokvasic 2009, 37; Shinozaki 2009, 71)。

後半は移民ケア労働者の置かれている状況を労働法との関連で書いている。またいつか紹介する。

下のリンクのPDFの初めの2ページが、移民の労働について日本語でよくまとまっている。就労令の章番号が上に紹介したものと合わないが、2013年に改正があったのでそれ以前のものかもしれない。

 

http://kantohsociologicalsociety.jp/congress/53/points_section01.html