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記事紹介: オーストリアの移民政策あれこれ

今年の初めにオーストリアで政権が交代し、保守政党の国民党(VPÖ)と緑の党が連立政権を作ったというのが話題になった。

 

オーストリアの新政権は未来のモデルになるか――今、ヨーロッパで注目されている理由 / 穂鷹知美  | SYNODOS -シノドス-

 

この記事でも書かれているように、オーストリアではヨーロッパでも早い時期から極右政党の自由党(FPÖ)が台頭しており、それを抑える意味でも中道保守が左派と組んだことが評価されたようだ。自由党はそれまで国民党と連立して政権をとっていた。

オーストリアでは昔ながらの自由主義的保守が国民党(Volkspartei)で、民族主義的な極右政党が自由党(Freiheitliche Partei)と、名前のイメージと中身が逆でなんとなく分かりにくいと思っていたが、自由党は台頭する過程でずいぶんと様変わりしたらしい。その経緯について、この論文が詳しく分析していて勉強になった。

現代ヨーロッパにおける, いわゆる 「極右」 政党の台頭の分析: オーストリア自由党 (FPO) の事例を中心として 古賀光生 本郷法政紀要= Hongo journal of law and politics 14, 161-193, 2005 (PDF)

ハイダーという人気のあった政治家の時代に変わったらしい。

 

国民党が緑の党と連立して政権を担ったことで環境政策では進歩があったようだが、移民政策でも左派の要請が反映されたのだろうか。しかし、これはあまり期待できないようだ。緑の党は移民政策でかなり譲歩しているらしい。

現政権の移民・難民政策に対する批判は国民党の中からも上がっている。2020年8月16日のツァイト紙の記事に国民党の政治家クリスチャン・コンラッドへのインタビューが載っていた。

難民を受け入れるべき理由として、政治的正しさではなく、キリスト教的な隣人愛やオーストリアの経済力を挙げているところがいかにも保守政治家らしい。

EUの一員であることを強調しているのも興味深い。

↑の論文にそのようなことが書いてあったが、ヨーロッパの極右はしばしばヨーロッパという単位に両価的な態度をもっているようだ。ヨーロッパの伝統や文化は重視するが、EUに政治的に干渉されることは拒む。中世ヨーロッパ的反動と、ギリシャ・ローマ的普遍主義のあいだの対立と混成、というとまるでいまどきトーマス・マンの『魔の山』みたいな話だ。

 

"Das ist verrückt. Verrückt!" AUS DER ZEIT NR. 34/2020 DIE ZEIT 34/2020

Christian Konradは、2015年に難民調整官になったときにはオーストリアの保守派の権力の要と見なされていた。5年たって彼はターコイズ緑連合[国民党と緑の党の連立、ターコイズグリーンが国民党の色]を批判し、どんなときに連邦首相に連絡せざるをえなくなるかを話した。

Interview: Corinna Milborn

16. August 2020, 20:39 UhrZEIT Österreich Nr. 34/2020, 13. August 2020

 

ZEIT紙: コンラッドさん、ご調子はいかがでしょうか。


クリスチャン・コンラッド: 個人的には上々です。しかし悩ましいのは、人間性という議題が政権の側でいまだ重要な価値をもっていないことですね。


Z: と言いますと?


コンラッド: 私たちがヨーロッパの連帯活動の枠組みで貢献を果たし、ギリシャからいくらかの家族や同伴者のいない未成年を私たちのところへ受け入れることでオーストリアの基礎がゆらぐということを誰も私に明確に説明できません。受け入れの準備は市長らにも民間にもあります。それらの人々のための資金源も私に提供されました。しかしオーストリアは何もしません。知るとひどいことですが、私たちは何もせずただ見ているのです。世間はますますギリシャの難民キャンプの状況に注目しています。ノードライン・ヴェストファーレン州の首相であるCDUのArmin Laschetはさいきんそこに行き、それをヨーロッパの不名誉と呼びました。オーストリアはそれに関与せず、身をかがめて隠れています。これは私には耐えがたいことです。私たちはオーストリア人として情熱的なヨーロッパの一員です。互いに話し合わなければいけません。


Z: いくらかの青少年を受け入れることが象徴的儀式以上のものになるのでしょうか。


コンラッド: 私たちが実質的に貢献するには400人ほど受け入れるべきでした。明らかに全員を受け入れることはできませんし、いくらかの人はキャンプに残ることを望み、私たちが仕事を見つけるのを支援します。そして多くは何より戻りたがっています。しかし帰還は容易ではありません。シリアにもアフガニスタンにも。


Z: いやおうなくアフガニスタンへ追放されます。


コンラッド: そしてそれは本当にひどいことで、そのためにアフガニスタンは安全だと言う専門家とされる人たちがいます。アフガニスタン大使でさえそれには反論します。大使もしかたなく思いきって反論しなければいけないのです。人々は死の不安を抱いており、残念ながらそれは根拠のある不安だったという事例を私たちは十分に聞き知っています。


Z: ギリシャからの難民の受け入れに反対する政府の主張は、オーストリアは他の国に比べてすでに多くをなしているというものです。


コンラッド: ドイツ人は少なくともそれくらい多くしました。イタリアとスペインは言うに及ばずです。誰が私たちの模範になるでしょうか。チェコでしょうか。それともハンガリー?スロヴァキア?まったく違います。私たちはヨーロッパで3番目に豊かな国で、移民流入でのみ社会を維持できます。私たちには支援するための余裕があります。政治家がそれだけ善良だからではなく、人々がまじめに働き税を払い経済を回しているからです。


Z: あなたは成果のあった研修生の在留権を求める市民運動に参加しましたね。しかしあれは犠牲の大きい勝利でした。というのは多くの人はもうすぐ訓練を終えてこの国を去らなければいけません。


コンラッド: 私たちの提案はドイツモデルで、訓練をしてから職業的な足がかりを固めるための2年間があります。この提案は国民党によって歪められたので、彼らは訓練後すぐ追い出されます。多くの人は出ていかず、隠れます。他にどうしようがありますか。多くのアフガニスタン人はさまざまな理由から改宗もしています。これはそこでは背信であり、迫害してもいいと見なされます。そこで裁判官は証拠としてすべての聖母マリアの祝日か七つの秘跡を列挙することを求めます。私も聖母の祝日を列挙できませんが、それでもじっさいに長らくミサの侍者でした。さらに加えてこれはすべてフェイクであり、追放は機能せず、私たちは主に東欧の人たちを追放しています。そしてそれにもかかわらず私たちは今若者から未来を奪い、企業から訓練した専門技能者を奪っているのです。どうかしています。まったくどうかしています。


Z: 現実には政治的に機能していますね。


コンラッド: 現実は、この国は過去数年に5万人の難民受け入れで何の損害も被らなかったことです。暴動もスキャンダルもありませんでした。これは文明社会の成果で、私たちはそれを悪く言うのではなく感謝すべきです。

 

Z: あなたは2015年に政府の難民調整官に任命されました。その前はRaiffeisenの修道会長で共和国の権力の影の中枢としてして知られていました。そしてまた猟師であり巡礼者として。人権活動家としてではありません。どういう経緯であなたは難民調整官になったのですか。

 

コンラッド: 地中海からの報道はすでに長らく話題になっていました。何千ものシリア人がギリシャに上陸しました。Traiskirchenの難民キャンプは溢れかえり、ますます窮屈になりました。そこで、私が調整官の代理をできるかという電話がありました。私はすぐにかけつけ首相と副首相と内務大臣の3名に約束しまし、着任しました。国境にはときに1日に1万人の人々がいました。主な問題は輸送と収容でした。人々はどこに寝るのか、どうやって行くのか、です。そこで私は連絡先を確保し、必要なものを調達するための電話をかけました。

 

Z: 一番強く記憶に残っていることは何ですか。


コンラッド: 信じられないことを経験しました。とくに民間人についてです。収容者についてもですが、私たちは毛布が2000枚必要で、家具屋に電話して回り、翌朝には毛布手に入りました。しかし、トップの政治家はこの問題を素早く効率よく受けとめる意欲の度合いがさまざまで、公務員のレベルでもどこをあえて管轄にしないでおくか決断するのは困難でした。しかしこれらすべても民間人が補ってあまりあることでした。

 

Z: 世論は数週間ほどで反難民、反支援者へと傾きました。それがあまりにひどく、多くの難民支援者は敵意を恐れて匿名でしか発言しなくなったほどでした。これは何が原因だったと思いますか。


コンラッド: 熱のこもった議論のテーブルやニュースを見守る人たちは、信じられないほど大きく取り沙汰された2、3の事件に促がされ、声高になりました。私はそのために罵倒され、いくらかの仲のいい友人と論争になりました。



[中略]
Z: なぜ人々はじっさいには国境の封鎖に賛成するのでしょうか。


コンラッド: それがこの件の不条理です。人々は外国人を拒絶すると言いますが、私たちはケア労働者[複数女性形]は必要としています。ウィーンの国民党党首のDominik Neppはさいきん、私たちは移民はいらないと言いました。Neppはマヌケ[Depp]ですか。私は彼に、まともでいてくれることを望んでます。守衛から外科医まで、病院にいる15人のうち12人は外国人か移民背景をもつ人です。彼らがいなくなったら私たちは大混乱になるでしょう。そして家族手当のインデックス化で彼らを罰するのです。

 

[中略]

コンラッド: 私は自分を曲げたり自分の中に新しいものを見出したりはしていません。私はよい家庭教育に恵まれました。お前が人からされるのを望まないことは他人に対してするなと。誰かが助けを必要としていたら助けてもらえるし、原則として私たちはまず誰かに歩み寄る。それでコンラッドは左翼だと言う者がいたら、私は「はあ、そうですか」と言いますね。

 

オーストリアはドイツに比べて移民のケア労働が法制化されており、黙認されているグレーゾーンの移民ケア労働者も少ない。しかしこれは移民が安定して働ける法的枠組みが整っているということではなく、違法滞在や違法労働への世論の風当たりが強いため厳しく取り締まった結果である。(くわしくは以前紹介したこの論文)

最後の方に出てきた家族手当のインデックス化というのは、これのこと。

Indexierung der Familienbeihilfe: Leere Ankündigungen - Marie-Theres Egyed - derStandard.de › Meinung

去年2019年のまだ自由党と連立していたころの政府の政策で、これによって家族手当の支給額を出身国の生活コストに合わせようとした。つまり、物価の安い国からきた人の手当を減らすためのものだ。

これは、「外国人が社会保障を不当に多く受け取っているにちがいない」という人種差別をはらんだ妬みの感情におもねった政策であり、とうぜん批判を受けた。EU裁判所や国内の憲法裁判所からも問題視され、大部分は廃止され、給付金をあとから払いなおすことになった。

さらに社会保障のための個人カードを悪用されないようにとカードに顔写真を導入したが、それに1億ユーロ以上もかかったわりに約束していたほどは社会保障給付を削減できなかった。このこともあって自由党は得票数を減らした。

 

いっぽうで国民党は早くから厳格なコロナ対策を講じて功を奏したため支持率を上げているらしい。オーストリアはイタリアに近いわりに被害を抑えることができた。しかし、結果的には正しかったとはいえ、これも外国人の締め出し政策で国民の支持を得た成功体験と言えよう。