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シュパイアーの地下墓地


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休暇でシュパイアーに行った。シュパイアーはドイツ南西部、ライン川の畔の街で、ここにもマインツのような大きな聖堂がある。

シュパイアー大聖堂は建造された当時はヨーロッパ最大級だった。神聖ローマ帝国の皇帝、コンラート2世が自分の廟堂とするために建築を命じた教会で、彼とその親族の墓がある。コンラート2世の孫で、カノッサの屈辱で有名なハインリヒ4世もここに遺骸があった。その大聖堂とお墓が見たかったのだ。

その日、帰省していた妻の実家のカイザースラウテルンから妻の運転でシュパイアーへと向かった。

ラインラント地方はどこもワインの産地だが、とくにSüdliche Weinstraße郡は名の通りのワイン街道で、見渡すかぎりブドウ畑が広がっている。Rödesheimでもブドウ畑は見ていたがここまで広くはなかった。f:id:Ottimomusita:20210825230959j:image

歩いて横断したら何時間かかるだろう。その途中で落とし物なんかしたら二度と見つからないだろうな。じっさいそんな誰かの落とし物がこのブドウ畑のどこかに眠っているのかもしれない。そんなことを考えながら眺めていた。

妻は運転が上手い。かなり飛ばすのがぼくは怖いけどドイツではふつうだ。周りの車の運転を評してしょっちゅう罵倒しながら運転する。ドイツ語の罵倒語をそれでひと通り覚えたほどだ。この日は渋滞が多くてよけい気が立っていたようで語彙もいっそう豊富だった。


Idiot!, Dumm!, Dumme Kuh!バカ Debb!, Trottel! とんま Arschloch!, Arsch! クソ野郎 Du spaßt! ふざけてんの Alter Schalter! なんてこったPalim palim ??

などなど…


これらはほんの一部で、ほかにもまだたくさんあるんだけど書ききれない。辞書に載っていない言葉もあるし、響きが面白いから敢えて調べない言葉もある。ドイツ語の罵倒語は多様だと思う。他の外国語でもそうだろう。日本語には少ない気がする。方言や昔の言葉だと色んな言い回しがあるけど減ってきたのかな。僕がシャバ僧だから知らないだけか。


しばらく車を走らせると渋滞の原因が発覚した。隊列を組んでゆっくり進んでいる白い働く車たち。バイエルン赤十字だ。赤い十字マークには今どき中心のすぼった鉄十字マークもあった。まだバイエルン州までは来ていないが、なぜ? そう思っていると妻が教えてくれる。

「たぶん洪水だよ」

この夏、ライン川が氾濫し広範囲に被害が出た。バイエルン州からも救援に出動していたのだろう。


シュパイアーに着くとさっそく大聖堂の2つの塔が見えた。技術博物館、水族館、骨董品博物館も徒歩圏内にある。車を停めて、さあ教会へと思ったが、

「先に水族館でしょ。そのために予約したって話したじゃない」

妻にたしなめられる。感染症対策で、まだ予約制で時間を決めてしか入場できないのだ。

技術博物館の飛行機の実物展示が館外に並んでいる。「行ってみたい?」と聞かれ「興味ない」と、外から写真だけ撮る。

 

ライン川の方へ歩くと野原に水が溜まっていて環境保護局がポンプでそれを汲み出している。あたり一帯にドブの匂いが漂っている。ここも被害は小さいながら氾濫していたらしい。


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水族館は子ども連れで盛況だった。展示のしかたに遊び心がある。地域の淡水魚が興味深かった。


f:id:Ottimomusita:20210825231523j:imagef:id:Ottimomusita:20210825232002j:imagef:id:Ottimomusita:20210825232041j:imagef:id:Ottimomusita:20210825232906j:image

街の裏から大聖堂に向かうと、街の壁の名残がある。聖堂の中は写真のアップロード禁止だ。地下墓地にはぼくだけが入る。妻はもうお腹が空いたらしく、外で待ってもらう。地下は暗くて涼しくて黴臭い。少し寒いくらいだ。

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(ああ、ここに埋葬されていたのか…)

さいきん歴史ドキュメンタリーや本であれこれ学んでいたので、死の匂いのする地下墓地には感慨深いものがあった。とはいえ地下は石棺以外とくに何もない。棺の中身も博物館に移されている。説明をざっと読んで2周して明るい外に出た。


大聖堂前の広場に面したレストランで昼食をとった。ぼくは鱸のグリルを食べた。広場の中央にはかつて民衆にワインを饗した大聖堂の鉢がある。外国人は少ないが、観光客もちらほら。コロナがなければもっと賑わっているだろう。

食事を終えた客が一人、バッグを椅子に忘れたまま自転車に乗る準備をしている。それを見つけたウェイターがバッグを手に追いかけて、

「ちょっとお兄さん!爆弾!爆弾忘れてるよ!」

そんな冗談が出てくるのも、人の出入りが多い行楽地として多少治安について緊張感があるからかもしれない。

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食後はゆっくり旧市街を見て回る。大通りを突き当たりまで行くと街の古い正面門と、さっきとは反対側の壁の名残りがある。壁伝いに入っていくと大聖堂の他にもいくつも教会があった。細い道は人が少なくてのどかだ。


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シナゴーグを見たあと、偶然ヘルムート・コールの墓を見つけた。かなり新しい教会があってその横にアデナウアー公園というのがあり、そこにコールの墓がある。前の前のドイツの首相で、前のCDU党首だ。評判が上下した人だが再統一時のドイツ首相として有名だ。もうすぐメルケルも辞めるし次は誰になるんだろう。


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さらに細い道を行って大聖堂まで戻り、水を買って、また駐車場に来た。技術博物館でトイレだけ借りた。

「今度来たらここ見ようね」と妻が言う。

「うーん」と生返事をしていると、

「あなたが見たいところばっかりじゃない」

どうやら技術博物館が見たかったらしい。彼女はふだんは何でもはっきり物を言うがぼくには優しいので、遠慮したのか言わなかったようだ。ぜんぜん気づかなかったのでちょっと反省した。そう言えば彼女は、学部までは技術系の学科だったし海外好きで飛行機も好きだから興味があったんだなとあとから気づいた。

次はここに入ろうと約束し、車に戻った。駐車場の前にも昔の軍の飛行機が置かれている。

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「あんな大きい鉄の塊が飛ぶんだよ。すごいと思わない?」と妻。

まあね。