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記事紹介: 親露に傾くドイツのポピュリズム?

先月の話題。ドイツの有名なフェミニストのアリス・シュヴァルツァーと左翼党のサーラ・ヴァーゲンクネヒトがウクライナ戦争における停戦交渉を呼びかける宣言を出した。これが親ロシア的だとして批判を受けている。

 

2023年2月10日のt-onlineの記事。

Sahra Wagenknecht und Alice Schwarzer: Offener Brief gegen Waffenlieferung

ヴァーゲンクネヒトとシュヴァルツァーはロシアとの交渉を要求

Prominente Unterstützung

Wagenknecht und Schwarzer fordern Verhandlungen mit Russland

著名人による支持ヴァーゲンクネヒトとシュヴァルツァーはロシアとの交渉を要求している

 

左派政治家のヴァーゲンクネヒトと作家のシュヴァルツァーは新しい公開書簡でドイツの武器輸送の結果に警鐘を鳴らしている。

左派政治家のサーラ・ヴァーゲンクネヒトと作家のアリス・シュヴァルツァーはウクライナへのドイツの武器輸送を終わらせることを求めた。それよりも連邦首相オラフ・ショルツ(SPD)は交渉にとりかかるべきだという。

Twitterに上げた一緒に映った動画で二人は金曜日に「和平を求める宣言」と題した嘆願を発表し、同時に2月25日のブランデンブルク門前でのデモ参加を呼びかけた。

「ロシアから情け容赦ない急襲を受けたウクライナの人々は私たちの連帯を必要としています」と嘆願にはある。しかし、さらなる武器の輸送には連帯は示されない。むしろそれは「世界戦争や核戦争へずるずると進む道」を敷くとしている。ウクライナの兵力がクリミア半島を攻撃する頃にはロシア大統領ウラジーミル・プーチンは「最大限の反撃」を用意するだろうとする。黒海の半島であるクリミアはロシアによって不当に併合されたものだ。

(中略)

 

ゼレンスキーとベアボックへの批判

シュヴァルツァーとヴァーゲンクネヒトは嘆願書の中でウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーへの批判も行なっている。「ゼレンスキー大統領は彼の目的を隠していません」と書いている。「彼は約束された戦車の次に今度は、戦闘機、長距離ミサイル、軍艦を求めています。ロシアに全面的に勝利するためでしょうか」ウクライナは、西側の支援で、個々の戦線では勝利できるでしょう、と書き、「しかしウクライナは世界最大の核兵器を相手に戦争そのものに勝つことはできません」としている。

二人はこの文脈で、「私たちは互いに戦争するのではなくロシアを相手に戦います」とEU議会で述べたドイツの外相アナレナ・ベアボックも問題だと感じている。

ショルツ首相は就任時にドイツ国民を被害から遠ざけると誓ったことを指摘し、「私たちは連邦首相に武器提供のエスカレートを止めることを要求します。今こそ、彼はドイツ、そしてヨーロッパ規模で停戦と和平交渉を求める強い同盟の先頭に立つべきです」と書いている。

 

書簡はこれが初めてではない

シュヴァルツァーとヴァーゲンクネヒトが公開書簡で連邦政府を批判したのはこれが初めてではない。すでに前の4月に彼らは似たような文書でショルツに宛ててウクライナに重兵器を送らないよう主張していた。彼らの言ではその間に50万人以上がこの書簡に支持の署名をしている。

反対の訴えでウクライナへの継続的な武器提供に賛成した知識人もいる。「攻撃されている者の手にあれば戦車と榴弾砲も防衛兵器だ。それらは自己防衛の役割を果たすからだ」と緑の党の政治家だったRalf Fücks、作家のDaniel Kehlmann、編集者のMathias Döpfnerが署名した文には書かれている。さらにその中で、ウクライナ征服にならないような和平交渉を望むなら防衛力を強化しなければいけないはずだと書かれている。ロシアの攻撃の成功を妨げることはドイツの利益になるという。

 

ウクライナ戦争の停戦は、領土を奪われるなどの譲歩を意味するので、侵略を肯定することになり親露的だと批判されているようだ。(ぼくの早く停戦してほしいと思っているけど、どっちが正しいか分からずにいる)

この停戦を求める意見はドイツの右翼にも見られる。

最近のドイツの右翼は、親露的な傾向がある。冷戦時はロシアを敵視していたが、今はむしろLGBTの権利や反植民地主義が西欧普遍主義だとしてそちらに対して反発している。そのためむしろEU議会やNATOを批判し、保守的で西欧とは一線を画すロシアにシンパシーを感じているようである。長谷川晴生さん訳のフォルカー・ヴァイス『ドイツの新右翼』にそのあたりが詳しく書かれていた。

反対にウクライナへの武器提供にもっとも積極的なのがドイツ緑の党で、これも昔のイメージからするとかなり意外だ。

以前この投稿で紹介したAfD支持者を定量的分析した論文[PDF]によると、緑の党支持者はポピュリズム傾向が最も低く、AfD支持者はもっとも高いそうだ。

ポピュリスト的なAfD投票者は56%なのに対し、SPDでは29%、左翼党では23%、CDU/CSUでは14%、緑の党では10%である。反対にAfDの非ポピュリストの投票者の割合はかろうじて12%だけで、緑の党(57%)、CDU/CSU(56%)、FDP(43%)、SPD(38%)、左翼党(36%)などよりはるかに少ない。

ここでいうポピュリズムは、政治的な既存勢力に対する反発と、国民の意志が一体だという意識のことだ。つまり、大多数の国民の考えは決まっているのに政治家がそれに反することをしているという考え方の強さの程度を表していて、思想の左右は問わない基準である。

ドイツでロシアに対して甘くなるかどうかに、このポピュリズム傾向が関係しているのかは分からない。プーチンの反西欧普遍主義の態度にドイツの反エスタブリッシュメントの勢力が共感している可能性はあると思う。

そして、反西欧普遍主義という意味では、日本の一部の右翼もそっちが本音なんじゃないかとぼくは思っている。

自民党LGBT特命委員会事務局長・城内実議員がオフレコ問題発言 「同性婚はウクライナが正しいという人と同じで少数派」|NEWSポストセブン

↑これがその一例。なんで同性婚の文脈でウクライナ出てくるの?と一見すると唐突に感じるが、彼らの中では反「西欧普遍主義」でロシアに同情的で、この点でLGBTと同じ問題だと見なしているということだろう。

しかし日本では自民党政権がそこまで「西欧普遍主義」ぽいものと一体ではないので、ドイツのように反エスタブリッシュメントに結びつくことはないのが大きな違いだ。

「西欧普遍主義」と「」をつけたが、LGBTや反人種差別、反植民地主義が西欧のものという配置はおかしいと思う。LGBTの人はどこにでもいるし、反植民地主義はむしろ第三世界から出てきたものだ。ウクライナ戦争にNATOの利害も関わっているのは否定できないとしても。

 

 

先月のウクライナ戦争停戦デモは右翼や極右の支持も集めており、極右と手を組むことになるのではないかという疑念も向けられていた。

2023年2月16日のtazの記事。

Wagenknecht und Schwarzer: Rechtsoffen – ein Manifest für alle - taz.de

 

ヴァーゲンクネヒトとシュヴァルツァー:右翼の受け入れ 全層へ向けた宣言

ヴァーゲンクネヒトの変節: 2月25日のデモには極右の旗は受け入れられない。しかし誰にでも開かれている。

 

ベルリン taz |  サラ・ヴァーゲンクネヒトとアリス・シュヴァルツァーの「和平を求める宣言」と2月25日のデモ呼びかけは数日間対立する議論を引き起こしている。


早くも呼びかけの公開後すぐにAfD党首Tino Chrupallaと極右系雑誌のCompactの編集長のJürgen Elsässerが支持側に回っている。

ヴァーゲンクネヒトは日曜日にシュピーゲル誌で右翼からの支持を拒否していたとはいえ、今は少し表現を変えている。左翼政治家のヴァーゲンクネヒトと出版者のシュヴァルツァーは木曜日にシュピーゲル誌でもあらゆる支援を受け入れる姿勢を表明した。

もし極右がデモに現れて旗を振ったらどうするかという質問に対しヴァーゲンクネヒトはこう答えている。「私たちのデモは真摯に平和と交渉を求めてる表明をしたい人は誰でも歓迎します。」しかし、右翼過激派の旗やシンボルはそこにはない。

すでに水曜日にTwitterに、最初の署名者でもありヴァーゲンクネヒトの夫で元左翼党党首のOskar Lafontaineが、インタビューに答えた動画が上がっていた。「そこでは思想調査はありませんし、誰も『どこの党員手帳をもっていますか』とか『誰に投票しましたか』とか尋ねることはありません。」

 

右翼の助けによる平和?

Lafontaineの立場を共有していなくても排除することはできないと政治学者のHajo Funkeは木曜日にtazに語った。しかし右翼を手段として使うことは阻止すべきだ。これに対してもとEU議員で最初の署名者でもあるGünter Verheugenは宣言を支持し、結びつけられている政治活動とは別物だとした。それはデモとは関係がないと彼はtazに話した。

左翼党幹部のJanis EhlingはLafontaineの招待に対する応答としてTwitterで全体に向けて、この呼びかけを拡散すると書いた。しかし彼はこのデモをもう支持しなくなった。「この国」ではエスカレートに反対する声がまだまだ必要だという。「しかし右翼を仲間に引き入れようとする者は、平和を求める信用できる意見とは見なせない」

ヴァーゲンクネヒトとシュヴァルツァーは2月10日にchange.orgのプラットフォームを使って「平和宣言」の名で署名活動を始めた。同時に彼らはウクライナでの戦争の開始からほぼちょうど1年後の2月25日のブランデンブルク門でのデモを告知した。彼らはとくにロシアとプーチンの戦争責任やウクライナでの犯罪を軽視しすぎていることで批判を受けた。

 

ヴァーゲンクネヒトが新党を創ろうとしているという話がある。旧東ドイツの人々や左翼、AfD支持者にも賛同する人がいるだろうとシュピーゲル誌。

Sahra Wagenknecht: Neue Partei könnte auf großen Zuspruch bei AfD-Wählern hoffen - DER SPIEGEL

ヴァーゲンクネヒトがAfDから入党のオファーを受けたという話もあった。