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Ueckermündeでの休暇

一週間だけ休暇がとれたのでナディーンといっしょにウェッカーミュンデというところに行った。ドイツ北東の端にあり、海に面し、ポーランドとの国境が近い。「ミュンデ」は河口という意味で、地名にこれがついているとそこには川と海がある。

フランクフルトから飛行機と電車で4時間ほどかかった。飛行機内はとても狭く閉塞感で不安になったので、広い海辺に行くことをなるべく考えるようにしてやり過ごした。そのためでもないがタコに関する本を読んでいた。

ウェッカーミュンデは港町らしい雰囲気のところだった。ぼくが内陸県で生まれ育ったせいか、昔から港町には明るいイメージがある。日本の港町も開放的な空気が満ちているように感じる。そこも、フランクフルトより青や黄色など原色の家がおおく、潮風は心地よく、野良猫も悠々としている。海辺というのがじっさいは地の果てで、行き止まりであることを考えるとこの開放感は不思議だ。

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そして何より魚料理がいい。しばらく旨い魚を食べていなかったので、カレイやスズキをレストランで食べて、しみじみそう感じた。フランクフルトの言語学校でドイツ語テキストの例文に

「スーパーでは、冷凍の魚は鮮魚より新鮮です」

という文があり、「この文章は正しいのか」とイタリア人の生徒が聞くと先生は「フランクフルトでは」と答えていて、(えらいところに来たな)と思っていたが、内陸ではそんなものなのだ。


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着いて二日目でナディーンが歩けなくなった。

ここ一週間ほど腰が痛いと言っていて病院にも行ったり、ぼくがマッサージしたりしていたのだが、きゅうに痛みが激しくなってついに歩くことも難しくなったのだ。タクシーを呼んで朝一番で地元の病院に行った。診断は椎間板ヘルニア。即入院し、すぐにでも手術をしないといけないらしい。しかしナディーンは遠い北の地で手術したくないと言って、フランクフルトに帰ってからすることに決めた。

かわいそうなナディーン。せっかくの休暇なのに病院のベッドで過ごすことに。まだ海も見ていないのに。ずっと泣いていたよ。

ぼくは彼女の荷物を届けるため歩いて病院に行った。病院は古くて煉瓦造りで、病室は暗かった。ぼくも気が滅入っていた。病室には、腕を折ったおばあさんが右に、脚にギブスをしたおばあさんが左に、互いに部屋の中央へ足を向けて寝ており、その真ん中にやはり部屋の中央に足を向けて大きなナディーンが鎮座していて、その絵面はなんとなく不釣り合いに滑稽だった。

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病院を出て一人で町を散策することにしたが、暗い病室の気分があとを引いていた。フランクフルトでもかかりつけ医に行ったのになぜ発覚しなかったのかとか、このところずっとぼくがマッサージしてたのはまるで無駄だったのかとか、ぐるぐる考えた。不合理とはわかっているが誰ともなしに腹が立ってきた。ぼくが怒ってもしかたないのだが。

それでもしばらく散歩して、広い草原から干潟、海まで行き、途中見わたす限り人がいないので立ちションなんかしているうちに気が晴れてきた。ドイツの公衆トイレはたいてい有料なので50セントの立ちションである、などと考えるよゆうもでてきた。


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町には川から引かれた水路が通り、そこに舟がとめられている。船内にはところ狭しとテーブルや日用品・雑貨、クッションが積みこまれ小さな居間のようになっている。観光客用のヨットも多い。舟のデッキでビールを飲みながらトランプをしている老夫婦がいて、なんともいい生活だと思った。二人ともよく日に焼けていた。


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河口の側に灯台があり、その彼岸に砂浜と日光浴場があった。橋はなく町まで迂回しないと向こうに行けない。見ているだけだ。こちらの岸にはヨシの繁った干潟とキャンプ場がある。ドイツ内陸の人が休暇と言えば思い浮かべるのがあの日光浴場で、ナディーンもそこに行きたかったのだ。写真を見せるとまた泣いてしまった。
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そのあと数日も一人で過ごし、船に乗ったり動物公園に行ったりした。動物公園(Tierpark)というのは動物園(Zoo)より生き物の種類は少ないけど、広くて森の中を区切った牧場のようにオオカミやシカが飼われている。柵沿いに森を歩いていると柵の向こうに動物が見える。まだまだ8月下旬の北ドイツとはいえまだまだ暑く、ほとんどの動物は日陰でうずくまっていた。一人でしゃべりながら歩いているおばあさんのところにオオカミがぞくぞくと集まってきており、おばあさんは「暑いねえ坊やたち」などと言っている。不穏だか和やかなんだかわからない光景だった。

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ナディーンのことだけが残念だ。帰路には、飛行機と電車のほかに、腰に障らないようタクシーを使った。松葉杖の彼女を周囲も気遣ってくれて、ゆっくりと帰った。彼女は障害者あつかいを嫌がったが、「誰でもそうなるんよ」とか話しながら。