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記事紹介: ドイツでも労働時間記録義務

以前、ドイツで労働時間規制が守られていないという実態を紹介した。

記事紹介: ドイツの長時間労働 稀な違反チェック 食品飲食業界 - Ottimomusitaのブログ

今年2023年の1月からドイツでも、雇用者は従業員の労働時間をすべて記録しなければいけないと法律で決められた。

[目次]

ドイツでは以前から法律上、超過分の労働時間は記録しないといけないことになっていた。また、残業時間以外の日々の労働時間もすべて記録すべしという判決がEU裁判所で下されていた。

第9回 欧州司法裁判所が画期的判決。企業には全労働時間を客観的に把握・記録する義務あり! – NPO法人 働き方ASU-NET

この判決が出たのが2019年で、3年たってようやくドイツでも定められたことになる。去年10月からドイツの法定最低賃金が上がったことだし、労働時間をきちんと管理しないと最低時給も意味がない。記録義務化は当然だろう。

Berliner Zeitungの2022年12月7日の記事。

Zurück zur Stechuhr: „Fraglich, was das bringt, außer mehr Aufwand für Betriebe“

未払いの超過労働時間

じっさい、大きな問題である。例を挙げると、過去数年で連邦全体で450万の事業所で労働契約で雇用者と合意したよりも多く働いている人がいた。2020年には合計で16億7000万時間に上る超過労働が行われ、その内半分しか給料が払われなかった。ただしこれは推定でしかなく、正確には誰にもわからない。しかしそれにも変化が訪れている。

また以前紹介した記事によると、

NGG: Alle 230 Jahre eine Prüfung: Gewerkschaft NGG kritisiert „Kontroll-Desaster“ beim Arbeitszeitgesetz

いまやドイツ内にどれくらいの規模の極端な労働時間があるかは最新データが示している。2018年の上半期だけでも被雇用者は10億時間の残業をしており、その半分以上は残業代を支払われていない(引用元: IAB)。連邦統計局は、9人に1人は週に48時間以上働いているとしている。就業者の4分の1は日常的に週末に働いており、この割合は飲食業界では86%にもなる。

そうした状況で、2018年にEU裁判所が労働時間を記録すべしと判決を出し、2022年9月にドイツの連邦労働裁判所でも同様の主旨の判決が出て、判決の根拠も12月に表明された。Frankfurter Rundschauの2022年12月17日の記事によると、

Pflicht zur Arbeitszeiterfassung: Was bedeutet das für Betriebe und Mitarbeitende konkret?

ミュンヘンの連邦労働裁判所(BAG)は数日前に、緊張をもって迎えられた労働時間記録についての原則となる判決の論拠を示した。これによると、雇用者は毎日の労働時間計測に「客観的で信頼できて誰でも使えるシステム」を確実に設けなければいけなくなる。

そして今年から時間記録が義務づけられている。

信頼労働時間は可能

雇用者側からは、かつてのようなタイムレコーダー式に逆戻りするのかとか、官僚制のモンスターだとか、信頼労働時間が通用しなくなるのかとか、手間が増えるといった懸念が上がっている。

記録方法は紙でもエクセルでもアプリでも、記録が残ればよいそうだ。これは雇用者側と見なされる社長や幹部クラスには適用されない。また、労働時間を被雇用者自身に管理させておく「信頼労働時間」も引き続き可能だという。Frankfurter Rundschauによると、

インタビュアー: ドイツでは多くの産業部門や事業所で信頼労働時間の原理が適用されています。つまり、雇用者は労働者の労働時間の管理を控えることです。これは労働裁判所の判決で終わりになりますか。

法律事務所の労働法専門家Sven Lohse: 信頼労働時間は、引き続き可能です。信頼労働時間というのが労働時間の状況について被雇用者が自由に決められるということなら、いずれにせよ可能です。

また、事業所協議会(Betriebsrat)主導ではないらしい。

Lohse: 事業所協議会は、労働時間記録システムを導入するかどうかという問題では主導権をもっていません。そのようなシステムの調整に際しては個々のケースでは共同決定権があります。

事業所協議会というのはドイツ特有の制度で、会社内の労働者代表組織だ。これは労働組合のような交渉権はもたないが、経営に関わることで発言権をもつ。

罰則

イ: 労働時間の記録を管理するのは誰ですか?

Lohse: この管理は、それぞれの連邦州の管轄当局によって行われます。これらは主に労働保護局です。

イ: 違反についてはどのような罰則がありますか。

Lohse: 労働時間記録の義務違反に制裁はありません。労働保護局が労働時間記録の文書化を要求し、企業がそれに応じない場合に初めて30000ユーロ以下の罰金が課されます。

労働時間を違法に長くすることで削減できる人件費を考えれば、30000ユーロというのはそれほど高くないのではないか。これは役所の監査がどれくらいの頻度で入るかという問題とも関わる。

労働組合は義務化を歓迎

再びBerliner Zeitungの記事から。

被雇用者の代表者らは労働時間記録の義務を喜んでいる。「3年間妨げられてきたが、ようやく発効した」とHivzi Kalayciは言う。彼はベルリンのIG BAUの労働組合書記長で、行われた労働の報酬を請求したが認められなかったという事例をいくつか知っている。「これまで組合員はお金をもらうために働いたことを立証しないといけませんでした。これで立証義務は逆転しました」とKalayciは言う。

また食品飲食店労働組合(NGG)でも改竄防止になる分単位で正確な労働時間記録が求められている。「結局のところこの問題全体で大事なのは、従業員がもたらした労働成果に対しては給料が支払われることです」とベルリンNGG代表のSebastian Riesnerは言う。年間数百万時間が失われたのは、被害者が法的に有効な形で自分の請求権を主張できなかったからだ。

まずチェック体制が必要

以前紹介した記事によると、役所による労働時間の監査はまったく足りておらず、昔よりも少なくなっているそうだ。監査官の数がそもそも少ないのだ。労働時間管理について現状は官僚制モンスターとはほど遠い。
監査がまず来ないくらい稀なら、労働時間を記録していない事業所も恐れることはなく今後も記録しないだろう。以前から超過労働時間は記録義務があったが、労働時間法に違反している職場はたいていそれも記録していないはずだ。わざわざ違反の証拠や補償すべき金額の根拠を残すことはしないからだ。そういった会社はルールが増えたところで今後も記録はしないだろう。ルールを制定するだけでなく、それをチェックする体制も拡充しないといけないのは明らかだ。
裁判になったあとに権利を請求しやすくなったことは進歩であり、労働組合はそこを評価しているようだ。しかし、立場の不安定な移民労働者には裁判を起こすことはなかなか難しい。移民労働者の多くは労働組合に加入していない。組合員ならば、訴えて不当解雇された場合の保障や裁判費用の補填も組合から得られるが、非組合員にはそれがなく移民なら在留資格の心配もある。今回の労働時間法改正ですぐに長時間労働が改善するとは思えない。