ヴィースバーデンでモロッコ料理
久しぶりに友達と会った。会って、河原を散歩して、ぼくはモロッコ料理が食べたい、という話をした。その友人はモロッコ系の人で、ヴィースバーデンにモロッコ料理のレストランがあると言っていた。それなら、と翌週その友人と初めてヴィースバーデンに行った。
ヴィーンスバーデンという名前はフランクフルトほど有名じゃないけどヘッセン州の行政の中心で、州議会があるのはここ。よく名前は聞くけど一度も来たことがなかった。車で30分くらい。
駅の裏に車を停めて合流し、駅前から伸びる幅の広い大通りを下って歩いた。
瀟洒なベランダのある家がいかにもヴィースバーデンらしい住宅、だそうだ。駅のすぐ近くなのにやけに閑静だ。いったい家賃はどれほど高くなってるのか、考えると恐ろしい。
「フランクフルトより好きだな」
彼がそう言う。
「静かだから?」
「うん」
フランクフルトはもっとごちゃごちゃしていて騒がしい。道もこんなに広く整然としていない。
「ケルンはもう行った?ケルンにちょっと似てないか?」
ケルンは行ったことあるけど、こんなんだったかな。2つの塔があるゴシック様式の大聖堂はケルンにもあったけど。ぼくは広い公園を挟んだ大通りが札幌ぽいなと思っていた。
州議会に着いた。思ったより小さいし、ひとつは工事中だ。幕にもとの建物の写真を貼って済まされている。
同じ場所に大きなレンガの教会があった。マルクト教会というらしい。きれいだけどなんか張りぼてみたいだなと話す。
しばらく歩くと大きな殿堂が見えた。フリードリッヒ像と公園もある。大きい。こちらの方が州議会議事堂という趣きがある。
でもこれの中はカジノと温泉らしい。ヴィースバーデンの「バーデン」は温泉地という意味だ。噴水もミネラル豊富だ。
カジノ宮殿の裏の公園には尾が長い緑色の鳥が飛んでいる。こいつらは動物園から逃げて繁殖した南米かどこかの種で、ドイツの鳥ではない。公園の中はその鳥たちのトロピカルな鳴き声で、鳥も飼っている温室の植物園みたいな雰囲気だった。
貸しボートもあった。
ずいぶん歩いて、もう郊外に出そうだ。あるいは向こうには山があるのか。開発中なのか、取り壊しているのか。
こういう、この街はここで終わりです、というような景色が好きだ。描きかけの絵の白紙部分みたいに、舞台の袖のように、都市が人の手で作られていることを再確認できるのが
、軽くて心地よい。映画の『13F』や『ダークシティ』みたいな昔のSFの、この街は作り物だったのか!ていうのの日常簡易版である。
ようやく目当てのモロッコ料理屋を見つけて、外の席に座った。SAYTOUNEという店名に、
「これはアラビア語でオリーブという意味だ」
と教えてくれた。
「あぁ、だからか」
テーブルを囲むようにオリーブの植木鉢が置かれている。
「オリーブは日本語で何ていうの?」
「オリーブ」
つきだしにも出てきた。店名になってるだけあって美味い。
グリルの3種盛りとサイドメニューを友人が選んで頼んだ。
ジャガイモは、喩えが貧しいけどコンソメパンチを10倍濃縮したような味でかなり美味い。とくに料理名はないらしいが。
葉っぱで巻いてあるのは米と野菜をブドウの葉で包んで蒸したもの。これ、よくスーパーに缶詰めで売ってて何だろうと気になっていたのだ。桜餅のような香りがする。
肉のグリルもどれもおいしい。中東料理はやっぱり肉だ。
食後にお茶を頼んだ。ミント入りの緑茶。ミントは大きな葉のものが枝ごと入っている。モロッコではこれが一般的らしい。
家では、火薬に似ていることからガンパウダーと呼ばれる中国茶の粉末を使って淹れる。焙煎した茶葉を使うレシピもあり、これはすぐに味が出るので早く淹れる。急須を持ち上げて高くから、泡立つくらい勢いよくコップに注ぐことで香り立ちをよくし、砂糖も溶かすのがコツ。砂糖を入れない人も多いが入れる人は大量に入れる。と、解説してくれた。酒を飲まない地域って甘党の人多い気がする。
前回会ったときもらったクッキーの容器に日本のお菓子を入れて返した。友人のお母さんがラマダンのときに作ったクッキーで、スパイスが効いていて甘すぎずおいしかった。
フェンネルの種っぽいけど、もう少しお菓子らしいスパイス。あのスパイスは何かと聞くと、知らないらしい。
「あれだよね。エキゾチックな、…いやオリエンタルな香りの」
彼がエキゾチック(異国情緒ある)というのはたしかに変だ。彼の姉に聞いてもらい、姉も知らず、調べてもらって、アニスとわかった。
ふむ。当たらずとも遠からず。ぼくはカレー作り出して、ちょっとスパイス覚え始めてる。フェンネルとアニスは、カレーに欠かせないクミンと同じセリ科のスパイス。
クミンはキョフテとか中東料理にもよく使う。
フェンネルは、インド料理屋に口直しのためにレジ横においてあったりするが、ドイツでは野菜として葉を食べる。
キャラウェイもセリ科の仲間で、これはザワークラウトとかドイツ料理によく使う。
帰りはローマ時代の門のようなものを見た。上に登ると子どもの遊び場から街を見下ろせる。